前夜前夜

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「今日は君だけに、僕のとっておきの理論を提唱したいと思う」  彼のことが少し苦手だ。コンビニのバイトで知り合った尼崎(あまさき)くん。  尼崎くんはちょっと変わっているというか、理屈っぽいというか、ハッキリ言ってしまうと面倒くさい人だ。  だからなのか、バイトも一週間でクビになった。  それなのに、なんの因果か連絡先を交換していた私は、こうしてたまに誘われては、尼崎くんとお茶をしている。  彼のことは苦手だけど嫌いじゃない。なんと言ってもイケメンだし、彼の話は10のうち6くらいは面白い。  今日は6の方であってほしいと願いながら、カフェラテに砂糖を入れてかき混ぜた。 「一般的に、人が最も喜びを感じる瞬間は前夜だと思うんだ」 「前夜?」  得意気に、上目遣いで口角を上げる尼崎くん。  ああ、これは4の方だ。直感的にそう察した。 「遠足も、運動会も、お正月もクリスマスも。全部、人が一番高揚するのは前夜だろう?」  だろう?と言われても。  苦笑してとりあえず頷くことにした。 「最たる例をあげるとするならば、それは金曜日だ。土日休みの人間にとって、金曜日の夜が一番テンションが上がるだろう?羽目を外したくなるだろう?」 「ま、まあ……」  この人は一体なんの話をしているんだろう。  私はもう、意識の半分をモンブランの方に移した。
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