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「土曜日は、次の日が日曜日、つまり休日の最終日だということを意識し始めて、全力で楽しめない。日曜日なんて、休日が終わる悲しみ、絶望を、真っ向から受け止めなくてはならない地獄が待っている。それはもう月曜日に等しい」
「うん、そうだね」
途中からもう何を言っているのか聞き取れなくなっていた。
尼崎くんは続ける。
「しかし、僕は思ったんだ。金曜日でもまだ“甘い”と」
何言ってんだこの人。
「金曜日は、もう嬉しすぎて周りが見えなくなっている。とても正気とは思えない。人々は金曜日の夜に溺れ、自分というものを見失う。そこで僕は気づいたんだ」
尼崎くんは、右手の人差し指を立ててじっと私を見た。
悔しいけど、少しだけその話の続きが気になり始める。
「一番、落ち着いて喜びを噛み締められるのは、木曜日だってことに!」
「……………………」
あまりにもくだらない説に、私はカフェラテを噴き出した。
それなのに尼崎くんは、目をキラキラと輝かせて再び口を開く。
「大事なのは前夜じゃない!前夜の前夜だ!」
「ちょっと尼崎くん、声大きいよ」
「前夜の前夜は、“明日は楽しいイベントの前夜だ”という喜びを、安定した精神のままに味わうことができる。自分を見失わないまま、前夜の喜びを体感できるんだ」
頭がおかしくなりそうだった。だけどなんだか物凄く嬉しそうにしているので、彼をこのまま見守ることにした。
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