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声を出したのは、その四人組のうちの紅一点だった。ウェーブした明るい色の長髪、吊り上った大きな瞳。普通に高校生くらいに見えそうな、大人びた長身の美少女。確かにどこかで見た覚えがある気がするが、一体誰だっただろうかと優理は首を捻った。生憎、まだ四月でクラス替えをしたばかりである。クラスメートの顔と名前が、まだ半分程度しか一致していないのが現状だった。
「誰だっけ」
思わず正直に口にしたあとで、彼女が名札をつけたままにしていることに気づいた。鮫島るりは。普通に読むなら、“さめじまるりは”であっているだろう、多分。
「あ、さめじま、さん?え、同じクラス?」
「……鮫島さんのこと認識してないとか、どんだけ能天気なんだよオメェ」
男子の一人がドスのきいた声を出した。その生徒は、名札の色からして三年生である。三年生にサンづけされる二年生――どうやら意外にも、この鮫島るりはという少女こそこの集団のリーダーということらしい。
「いいっていいって。まだクラス替えしたばっかりだもん、私のこと知らなくてもしょうがないわよ、ねえ?」
さほど気分を害した様子もなく、鮫島るりはは男子生徒を制した。そしてひらひらと手を振って、親切だから自己紹介してあげる、と言った。
「私はあんたと同じクラスの、鮫島るりは。この学校じゃちょっとした有名人だと思ってるんだけど、知らなかったみたいね?で、この隣にいるのが私の彼氏の雉本光。こっちもあんたと同じクラスなんだけど、認識してないかな園部クンは」
「…………」
雉本光。そう紹介された二年生は、随分ノッポな印象だった。こちらも中学生とは思えない上背である。残る取り巻きの三年生二人と比べたら細身だが、それでも目つきはぎらぎらしているし、相当喧嘩っぱやそうな印象だ。
そして、彼女は今はっきりと、優理のことを“園部クン”と呼んだ。向こうは自分の名前をはっきり覚えていた、ということらしい。
「で、この二人は坂田と安生。私のお仲間」
残る二人の三年生は、下の名前さえ呼ばれなかった。それだけで、この四人の力関係が見えようというものだ。
「まあ、全員喧嘩とか結構強いから、刃向わない方がいいと思うのよねー。でもって、私達はお金がなくて困ってるから、優しそうな岸本君に助けてもらおうと思っただけ。ちゃんと借りたら返すつもりだったのに、岸本君ってば私たちにはお金が貸せないなんていうのよ。酷いと思わない?だからちょっとお仕置きしようかなってなっただけ」
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