<1・優理>

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「くっそ、どこ行きやがった!?」  どの少年かはわからないが、怒り心頭の怒声が廊下に響く。すぐに少女の“やめなさいよ”という窘める声が聞こえた。 「ここで怒鳴らないで。面倒なことになるから」 「けどっ!」 「もういいよ。……どうせ同じクラスなんだもん、明日また探してとっ捕まえてやればいいだけでしょ」  やはり、るりはがあの集団のリーダーということで間違いないようだ。足音と気配が遠ざかっていく。思った通りだ、と優理は安堵の息をついた。この空き教室、左隣は階段で、右隣は職員室なのである。ここで騒いで先生が飛んできたら面倒くさいと思ったのだろう。事なかれ主義の先生達であっても、さすがに職員室前で不良が騒いでいたら見て見ぬフリをするわけにもいかないだろうからだ。  これが、先生と殴り合うのも辞さないガチもんの不良ならそうはいかなかっただろうが。所詮はこの田舎町でちょっとイキってる程度の連中である。先生相手に警察呼ばれても立ち回るような度胸があったわけではないらしい。ひょっとしたら、あのるりはという少女は表向きは優等生で通っているのかもしれない。不良たちとツルんでいるにしては、妙に身綺麗な印象だったからだ。 「……すごい」  彼等がいなくなったのを確認してから、空一がそろそろと机の影から出てきた。小学生でも通りそうな童顔で、目をまんまるにしてこちらを見ている。 「園部君……わかっててここ逃げ込んだの?」 「まあね。昔から逃げるのと隠れるのだけは苦手なんだー。いじめられてばっかりだったからさ。岸本君もぜひ参考に。ああいう奴らは問答無用で逃げるのが吉だよ。基本は人目につきやすいところがベスト。あいつらレベルだと、先生の目も無視できないくらいだしさ。実際職員室に近いってだけで諦めたじゃん?まあ同じクラスだからいいやーってのもあったんだろうけど」 「よく考えられるな、そんなことまで……」  感心しているのか、あるいはちょっと呆れているのか。彼は複雑そうな顔で頷いた。 「……ありがと、助けてくれて。でも、これで園部君も目つけられたよ。あいつら、自分でも言ってたけどちょっとヤバイので有名だから。特に、鮫島るりはと雉本光。あいつらが去年うちの学校に転校してきてからなんだよ、この学校が荒れてきたの。中学生なのに、なんかワケあって二人揃って一年ダブってるって噂だし……」  ああ、一学年年上だったのか。彼等の大人びた容姿を思い出して、優理は納得してしまった。まあるりはの場合は、十五歳どころかもっと上と言われても遜色ないほどではあったが。
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