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「僕なんて、クラスで大して喋ったこともないのに、なんで助けてくれたの?その様子だと、喧嘩強いわけでもないんでしょ」
本気でわからない。そういう様子でこちらを見る空一に、彼の戸惑った顔の理由を知る。大して仲良しでもなんでもないクラスメートが、喧嘩も強くないのにしゃしゃり出てきてなんのメリットがあるんだろう、と思うのもおかしなことではないかもしれない。ただ。
「いや、申し訳ないんだけど岸本君だってのも気づいてなかった。声かけてから知ったくらい」
優理は正直に答える。
「でも、カツアゲとかいじめとか、見つけたらほっとけないじゃん?お節介かもしれないけど、見て見ぬフリして今夜寝れなくなる方が俺は嫌だからさあ。まあ……それでいっつも余計なとこにクビつっこんで、自分がいじめられる羽目になるんだけど」
逃げ足が早くなったのも、隠れる場所を常に探す癖がついたのもそのためだった。なんせ喧嘩するだけのスキルもないし、人を殴る度胸もない人間である。上手にトラブルを避けたいと思ったら、極力逃げる方法を磨くのがベストなやり方だったのである。まあ、いつも逃げ切れるとも限らないわけだが。
「そこで見て見ぬフリしたら、もう俺が俺じゃない気がする。……そんだけだから、岸本君もあんま気にしないで。ていうか、むしろ俺のせいで余計岸本君が嫌な思いをしちゃったらそっちのが申し訳ないけど」
「そ、そんなことない!そんなことないよ!」
彼はぶんぶんと首を振った。そして、じわり、と涙をにじませる。今になって恐怖が蘇ってきたのだろう。
「ありがとう園部君。おかげで僕、お金取られないですんだ。今日の帰りにさ、母さんの誕生日ケーキ買って帰る予定だったから」
「すごい!孝行息子じゃん!そりゃいいこと聴いた。喜ばせてあげなよー」
「うん!」
園部優理は、いじめられっ子である。
ただし、自分からクビを突っ込んでいっていじめられるという、ある意味自業自得なタイプの。それもそれで仕方ない、と本人としてある程度納得しているというのもある。
ただ、いつも許せないと思うだけのこと。
理不尽があると思うなら、それに怒りをため込むだけはいけない。
どんな小さなことでも自分の力で変えていかなければいけない――それが、優理のモットーであり、生きる意味そのものであったのだった。
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