<2・信念>

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 まさか、こんな小学生レベルのいじめをやられるとは思っていなかった。タイミングから見て、十中八九鮫島るりはたちの仕業だろう。どこかに呼び出されてボコられるとばかり思っていたのに――そこは女子が主導しているからこそ、なのだろうか。男のいじめより、陰湿な方向に向かうことが多いと聞いたことがある。まあ、男であっても物を壊したり汚したりなんてことは珍しくないのだが。  ちらり、と顔を上げた先には、心配そうにこちらを見る者達、見て見ぬふりをする者達、それから面白そうにこちらを伺うるりはの視線。相変わらずその隣には、まるで騎士のように雉本光が控えている。自分がこれで心折れるかどうかを試しているといったところか。 ――悪いけど、こういうのもう結構慣れてるんだよなあ。つか、器物破損に行くと警察沙汰になりやすいんだけど、そういうのわかってないあたり馬鹿な連中だ。  何だか、逆に不憫になってしまう。人をそうやって追い詰めて、傷つけて、それで思い通りにならないと満足できない。今までどれだけ人生が不幸だったのだろう。親ガチャに失敗したのか、友達ガチャに失敗したのか、それとも生まれつき性根が腐っていたのか。――一番最後のは、よっぽどのことでもない限りそうそうありえない、と個人的には信じているのだけれど。 「そ、園部君……!」  多分、勇気を振り絞ったのだろう。空一が、青ざめた顔で声をかけてきた。 「ごめん、僕のせいで。て、手伝うよ……」 「ありがと、でも大丈夫」  例の二人が見ている。犯人がわかりきっている。その状況で、優理に声をかけるのがどれほどの覚悟が必要だったか。  その気持ちだけで、優理には十分すぎるほどだった。  いじめを見て見ぬ振りをする人間も同罪だ、と言う人がいる。でも自分が当事者になってみればわかるはずだ。いじめられている人間を助けたら、自分もいじめられるかもしれない。その恐怖に打ち勝つのは並大抵のことではないということを。  彼もまた、何かを変えようと頑張ってくれている。だとしたら、自分にはそれ以上のことなど何もないのだ。 ――僕の気持ちは、ちゃんと誰かに届いてる。だから、こんなことに負けたりなんかするもんか。  その後。十分休みや昼休みに、他の友人達にも謝罪を受けた。やはりと言うべきか、るりはのグループが犯人であることに大半のクラスメートがわかっていて、でも彼女の悪名を知っていて何も手出しができなかったんだろう。まったく、まだ半月ほどとはいえクラスのこの状況に気づいていなかったなんて我ながら情けないことだと思う。  無理や無茶をするつもりはない。それでも、どうにかして彼等を止められないだろうか。悶々と優理が考えていた、まさにその時のことだった。 『今日の放課後、話をしましょうか』  誰に電話番号を聞いたのやら。あのるりはから、LANEでメッセージが来たのである。 『逃げるんじゃないわよ。ちょっと面白い人質を用意してるんだから』
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