<1・優理>

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<1・優理>

 世界は理不尽ばかりだ。男子中学生、園部優理(そのべユーリ)は常に思っていた。暴力だけ振りかざす輩が弱い者いじめをして平気で嗤う世界、無能な権力者が金とコネだけで私腹を肥やす世界、トチ狂ったテロリストが狂信を掲げて、無力な一般人に銃を乱射する世界。  おかしいと思うことなんて、この世の中にはいくらでもあだろう。しかし特別な能力もなんでもないただの人間に、出来ることなんて限られている。現実の世界には、漫画やアニメにあるような異能力もないし、都合よく自分を助けてくれる神様も現れない。自分と大切な人を救って世界を変えたいなら、自分自身の力で守る努力をしなければいけないのだ。  例え、己の体がどれほど貧弱であっても。  例え、己に恵まれた環境や、選ばれた能力がなかったとしても。  例えその結果、成そうとした正義の代償が自分に降りかかって来たとしても。  己の信念を曲げて、目の前の過ちから見て見ぬフリをして、俯いて生きるなら。それは、死んでいることとなんの違いがあるだろうか。 「やめなよっ!」 「あ?」  恐怖心がないわけではない。それでも優理が声を張り上げたのは、そんな己の信念に悖る行為などしたくなかったからだ。同じ中学生の少年が一人、校舎裏でカツアゲをされている。お約束すぎる光景だ。なんといっても優理の学校は、不良とそうではない生徒の落差が恐ろしく大きいことでも有名なのである。こんな田舎の学校でイキっている生徒など大したものではないのだろうが、それでもひと昔前を彷彿させるようなガラの悪い連中に、そんな見た目だけで恐怖を感じる生徒は少なくないに違いない。  きっと、目の前の少年もそうだったのだろう。お世辞にも屈強とは言えない体格の優理より、さらに小柄な少年は今、まさに不良達に殴られる寸前であるように思われた。直前の会話は優理も聴いている。どうやら少年はカツアゲされたものの、本気で持ち金がなかったということらしい。それが、不良連中の気に障ったということらしかった。優理は眉を顰める。カツアゲしている側の連中は四人組。うち一人は、なんと女子生徒だったからだ。 「カツアゲなんかやって、恥ずかしくないの。自分がお金に困ってるからって、人を傷つけていい理由にはならないよ」  カッコつけだと言われるかもしれないし、きっとそんな正論が通用する連中ではないだろう。それでも、言うべきことははっきり言うのが優理の流儀だった。当然、相手の少年たちは“なんだテメェ!?”とガンつけてくるわけだが。  バッジを見る限り、全員が二年か三年。そりゃ、体格もいいはずである。まあ、二年生にしては小柄な優理からすれば、平均身長でも十分デカい部類に入りそうだが。 「どこの正義のヒーローかと思ったら、あんたうちのクラスのやつじゃん」 「え」
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