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この部屋に来てから何時間が経ったんだろう。
窓から差し込んでいた明かりが赤く染まり、至近距離にある彼の顔も見づらくなってきた。
「もう、夕方ですね」
「…そうだね、」
彼女でもないのに、帰りがたい、なんて言ったら…おかしいだろうか。
彼の腕が頭の下から引き抜かれる。
あ、もうサヨナラか…って、私も起きあがろうとすると、
「今日、簡単にカレーとかでもいいですか?」
「え?」
「カレー嫌い?」
「いや、嫌いとかじゃないけど」
さも当たり前に言った彼にポカンとしてしまう。
「夕飯、いいの?」
「昼は作ってもらったから、俺作るよ。こう見えて割と料理するんです。まあ、カレーって信憑性ないかもだけど。」
苦笑いする彼に、心の中で「そうじゃなくて、まだいていいの?ってことなんだけど。」と呟いたが、口にしなかった。
彼が当たり前のように私といる選択肢を取ってくれたのが嬉しかったから。
服を着て、キッチンに向かう神代くんに何か手伝おうかと尋ねたけど、ソファーに座ってて、の一点張りだった。
昼の私との逆転現象だ。
手際の良い調理を見ながら、あんなに冷蔵庫が整理されていたのは彼女がいるからってわけじゃなかったんだ、って証明されてホッとした。
19時すぎにはテーブルに運ばれてきたカレー。
誰かに料理を作ってもらったのなんて実家に帰ったとき以外になくて、記念に写真を撮るくらい嬉しかった。
「写真撮るならもっと良いもの作りたかった」と口を尖らせる神代くん。
そんな必要はない。誰かが私のために作ってくれた、その事実がすごく嬉しいんだ。
口にカレーを入れてすぐ、感嘆の声を漏らす私に神代くんは呆れたように笑った。
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