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神代くんの肩口からこっそり見た井上さんは別人のようにやつれていた。
前までの朗らかな笑顔なんてかけらも見当たらず、あれは作り物だったことをようやく知ったって時を戻すことはできない。
「神代、全部お前がやったんだろ…」
「全部…とは?」
「不審メールも、ウイルスも…あれだって、わざと机から落ちるように俺の席に戻したんだろ…!」
井上さんが神代くんの胸ぐらに掴みかかった。
眼前の大きな背中がガクンと揺れたその瞬間…私は咄嗟に神代くんの手を振り払って前に出た。
「…やめて、ください…!」
「っ、…」
井上さんの手を神代くんから引き離そうと、両手で掴むがびくともしない。
「井上さん…!神代くんは、悪くないんです…、私が…」
考えるより前に体が動くとはまさにこういうことだと思った。
「秋月さん!…危ないから下がってて」と珍しく慌てた様子の神代くんの声を聞く余裕なんて皆無で、とにかく私のせいで神代くんが酷い目に遭うと思ったら耐えられなかった。
ー…でも、
「…秋月、お前が俺に復讐するよう神代に頼んだのか」
「…っ、」
ジロリ、神代くんに向いていた視線が私に向いた瞬間、ゾゾ…っと背中に悪寒が走る。
神代くんを掴んでいた手が離れたはいいが、今度はその手が私の両肩に乗せられて。
「俺、言ったよな?…お前が…誘ったから悪いって」
「…ひっ、」
「お前が色目使ってくるから答えてやっただけなのに…こんなことになって…。全部お前のせいだからな、秋月」
強い力で肩を押され、廊下の壁に背中を叩きつけられる。
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