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「…おい、いい加減にしろよ…っ、」と井上さんの腕を掴む神代くんを「うっせぇ!」と怒鳴って振り払った井上さんは、再度私に憎悪の目を向ける。
「1週間の謹慎と減給処分、部署も異動で完全に出世ルート絶たれたよ。」
「…っ、」
「妻にもバレて子どもと一緒に家を出て行ったよ。
社内の全員が俺を敵のような目で見てくる。」
そんなの…
「全部お前のせいだからな、秋月」
「…、」
そんなわけない。そんなの、完全に自業自得でしょう?
でも、声が出ない。
私より背の高い井上さんに壁に追いやられて暗くなる視界では、冷静に状況の判断なんてつかなくて、
もしかしたら、…私が間違ってるの?、なんて。
こうやって丸め込まれるから、自分の意思を諦めるから…
だから、私はダメなんだ。
「…っ、あ、の…」
頭が真っ白。息苦しい。
膝がカクカクと震えて、今にもその場に崩れ落ちそうで。
そんな時、だった。
「…あんたさぁ…」と低い声と共に…私の視界に光が差す。
「いつまで訳わかんねーこと言ってんだよ。
お前は加害者で、秋月さんは被害者。そんなことも分かんねぇなんて、頭狂ってんの?」
後ろから井上さんの肩を引いた大きな手。
井上さんの肩越しに見えた彼の鋭い眼光は…今までで一度も見たことのないものだった。
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