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私から井上さんを引き離すと、井上さんの胸に肘下を押し当ててドンッと激しく壁に追いやる。
「離せよ…!」と暴れる井上さんを神代くんが逃すことはなく、
「…あれだけ職務怠慢してたくせに…会社に残れるだけでもありがたいと思わないの?」
「…ああ゛?!お前があんなことしなければ…」
反発して口を開く井上さんにチッと舌を打つと。
ーダンっ…
「…っ、た」
「黙れ」とでも言うように、神代くんは掴んだスーツの襟元を一度手前に引いて、再び壁に打ちつける。
井上さんを睨む綺麗な横顔が殺気を放ち、私の背中をツーっと冷えた汗が流れる。
「今度、秋月さんに何かしたら…社会的に…今度こそ確実に殺すから。」
「っ、」
「俺、そういうの容赦しないです。覚悟してください」
…ドックン、ドックン、と。
自分の心臓の音が爆音で聞こえる。
これが、この状況に対する恐怖からくるものなのか、それとも別の何かに対するものなのか…冷静に判断することはできなくて。
それでも、普段の気怠げな様子からは想像できないほど真剣な彼の表情が、
威勢の良かった井上さんを黙らせるほどのその気迫が…、
全て私のためであるということに、心が震えている。
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