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「…あっちです!」
「井上さんっ…!何やってるんですか!」
廊下の端からそんな声が聞こえた。
声の方向に顔を向ければ、すごい剣幕で走ってくる管理職らしき男性と、その後ろから若い男性と警備員のおじさん。
そしてその後ろには、今にも泣き出しそうな女性社員が小走りで近づいてくる。
一番先頭を走ってくるあの人は、確か人事の担当課長だ。
井上さんが神代くんに絡み始めてすぐ、巻き込み事故に遭いたくない社員たちはアリンコが散るみたいにサーっと廊下からいなくなった。
でもその中には善良な人もいて、人事部に報告に行ってくれたらしい。
泣きそうになりながら安堵の表情を浮かべているあの女性社員が多分そう。
すぐに近くまでやってきた人事部の人たちは、神代くんに「悪いね、迷惑かけて」と伝えてから、二人掛かりで井上さんの両脇に腕が差し込まれる。
それにより、井上さんがしっかりと捕らえられたことを確認した神代くんはゆっくりと体を離した。
「ふざけんな…!俺はこいつに陥れられただけだ…っ」
「…なんのことっすか。」
「…っこいつ、」
「ちょ…、井上さん…!」
尚も暴れる井上さん。
振り回された手が神代くんの顔を掠め、彼は微かに眉を顰めた。
瞬間、人事の人たちの手によって井上さんと神代くんはお互い手の届かない距離まで引き離される。
ここでまた揉み合いになったら困ると思われたのだろう。
「もう、何してんの井上さん!」
「神代、…覚えとけよ!絶対許さないからな?!」
「あー、もう…はいはい、行くよ。」
人事課長は、「神代くん、ごめんね…?」と申し訳なさそうに頭を下げてから私たちに背を向けた。
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