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「神代くん…私のせいで、本当にごめんなさい…」
「月曜にも言いましたけど俺が、俺のために、やったことです。だから、聖奈さんが気に止む必要は全くないよ。」
「でも…」
自分のためにやった、って。
それが私に罪悪感を抱かせないための優しさだということくらい当たり前に気付いている。
悪いけど、彼の言葉を鵜呑みにして、「はい、そうですか」と言えるほど私は鈍くはない。
どう詫びればいいのか、と…表情を曇らせて考えていると、神代くんはふっ、と笑った。
「本当に、聖奈さんのせいではないんだけど。まあ、聖奈さんの性格上納得いくわけないよね。」
「…」
私の頭の中は筒抜けで。
私ってそんなに分かりやすい人間なの?と、若干恥ずかしくなる。
なんだかバツが悪くて視線を逸らすと、はらりと落ちた横髪。
それを指で掬って耳にかけた神代くんは、そのまま顔を近づけそっと低い声を漏らす。
「本当に…気にして欲しくないんだけど、さ。」
「…っ、」
「俺への申し訳なさで頭いっぱいになってる聖奈さん…すげー可愛い」
「な、…、」
思わぬセリフに不意打ちを喰らって、ボンっと顔に熱が集まる。
こっちは罪悪感で苦しんでいるというのに…それを“可愛い”だなんて…!
目を見開いて神代くんを見上げると、唇を横に広げて余裕たっぷりに笑ってる。
一人テンパる私を他人事のように傍観する茶色い瞳は、全然事態の重さを分かってない!
「ねえ、神代くん…ちゃんと分かってる?」
「何が?」
「人事部の監視下に置かれるとしても井上さんが社内にいる以上、またこんなことが起こるかもしれないんだよ?」
「うん、そうっすね」
「そうっすね…って、」
あまりに軽い返事に言葉を失う。
ポカンとする私をクスクス笑った神代くんは、
「もし仮に、またこんなことがあったとしても、」
「…しても?」
「俺が聖奈さんを守ります。」
「…っ、」
「だから、大丈夫です」
…なんて。
少女漫画のヒーローみたいなことを言う。
現実でこんなこと言うなんて、クサくてクサくて仕方がないのに…
簡単にギュンギュンと早鐘を鳴らすこの柔な心臓がひたすら憎い。
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