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「今日は何作ってくれるんですか?」
「…シンプルにパスタを」
「好きです。聖奈さんが作ってくれるならなんでも。」
「…ちょっと、黙っててほしい。そして、離れて。」
整頓されたキッチンに立った私を挟んでシンクに両手をつく神代くん。会社の何倍もテンションが高い。
そんな彼を心の中で「かわいい」なんて思っている私はちょっとどうかしてる。
「…今日の服、いつもと雰囲気ちがうね」
「…っ、」
「似合ってますよ?可愛いです」
「べ、別に…普段着だし…」
真っ赤な嘘。
ああでもない、こうでもない…と今朝方部屋で繰り広げられたファッションショー。片付ける暇もなくて、散乱する洋服を放置してここにやってきたことは、できればバレたくない。
出かけるわけでもなく、ただ家でご飯を作るだけなんだから服装なんてなんでもいいのに、
先輩として、ダサいと思われたくないし…とか、
洋服持ってないのかな、と思われるのも嫌だし…とか。
色々な言い訳を頭に浮かべながらようやく選択したのは、普段職場では着ないミモレ丈のレーススカート。
普段履くことの多いタイトなものではなくて、フレアなデザインだ。広がりすぎることはなく、大人可愛く着れるから気に入っていて、プライベートではよく着ているんだけど…
「いつもの大人っぽい格好も好きだけど、…こういう可愛い感じも似合うんだね」
こうもどストレートに褒めらられると、照れてしまう。
「…ほ、褒めてもなにも…出ないわよ」
「うん、聖奈さんはいてくれるだけで良いよ?」
「…っ、」
後ろから回っている腕にギュッと力の籠ると同時、病気にでもかかったみたいに、喉の奥が締め付けられて苦しくなる。
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