この気持ちは何

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後ろから抱きつかれ、顎を置かれた肩がずしりと重くなる。 「こら、包丁持ってる時に抱きついたら危ないでしょ?」 「…。体が勝手に?」 「嘘つけ」 「そこに聖奈さんの背中があったから…」 「山があったから、みたいに言うな!」 抑揚のないトーンで淡々と返ってくる言葉だけど、体勢せいか少し甘えたような声色で耳に響く。 ポンポンと交わされた会話がなんだか可笑しくて、二人同時にふっと小さく吹き出した。 嫌々、という体でここにやってきたにも関わらず、まんざらでもない気持ちになっている私。 滑稽で恥ずかしいのに、まんざら…どころか、付き合いたてのカップルのような高揚感に酔いしれる私は…イタい。…イタいよね? 分かってはいるんだけど… 職場では想像できない、この甘えたな神代くんを前にして、 胸を震わせないでいるなんて、相当強靭な心臓の持ち主でなければ不可能だと思うんだ。 「聖奈さんって世話好きだよね。」 「え?」 「今日ここにきてから、俺なにもしてない。 こんなに至れり尽くせりでいいのかなって。」 「…んー、癖?性格?みたいにものなのかもね」 桃の皮を丁寧に剥きながら、何気なく返す私。 仕事や周りの目から切り離された空間で、神代くんと心地よい時間を過ごせて…きっと油断してしまっていたんだと思う。 「ほら、元彼がなにもしない人だったから。 こうやっていつも世話焼いてたから慣れてるの。」 「…、は?」 自分の口から出たものが【失言】だ、と気づくのに…数秒の時間を要した。
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