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「ふーん、あのひどい元彼と…一緒、ね。」
「え、あ…!そういうわけじゃなくて…!」
不機嫌な言い草にハッとしてももう遅く…腹部に回っていた手がするりと身体から離れた。
「ね、元彼、パスタ箸で食うの?」
「えっと、…」
「ふーん、図星ね。
聖奈さん…包丁、置こうか。」
「…は、はい。」
低い声に言われたとおり、まな板の上に包丁と切り掛けの桃を置いて奥の方に追いやった刹那、
ぐるりと身体を反転されて、超絶至近距離で冷たい目に晒された。
「俺のために色々してくれる聖奈さんが嬉しかったのに。
…元彼にも同じことしてたのかと思うと…ムカつく。」
「…っ、」
「聖奈さんの言葉ひとつひとつに一喜一憂する俺のこと…面白がってんの?」
「…ちが…、…ひゃ、っ」
深く、唇を塞がれる。
逃げたくても、両手で顔を掴まれていてどうすることもできない。
「…っん、ぅ」
唾液ごと私の舌を絡め取る神代くんのキスは、すぐに私から理性と体力を奪う。
食べられるんじゃないかというほど、真上から激しく口付けられて、喉の奥をツーっとどちらのものか分からない唾液が流れていった。
彼がこんなに怒るのは…やはり私が好きだから、なのか。
何度も何度も、そうだ、と教えてもらっているのにどうしても信じられなかった。というか、臆病な私は信じようとしなかった。
余裕のない頭では言い訳とか、予防線とか…そんなものを考える暇はなくて、
その代わりに、胸がぎゅうぎゅうと苦しくて、彼に強く抱きつく腕に想いが籠る。
…どうしよう、私…神代くんのこと…。
「…っ、」
「おっと、」
膝からカクッと崩れ落ちたところ、神代くんに支えられる。
必然的に離れた二人の唇の間を繋ぐ銀の糸。
プツリとそれが切れると、神代くんはペロリと舌なめずりをした。
「…ベッド、行こっか」
「…」
目を泳がせる。
視線を下げて、俯いた後、迷いながら彼を見上げた。
頷き、と言えるのか分からないソレ。
しかし、「行こ」と短く言って私を抱き上げた力強い腕は…
どうやらソレをイエスの返事としたらしい。
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