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「どうですか、聖奈さん。決まりそう?」
ウロウロと一通り部屋の中を周り終えた神代くんが聞いてくる。
「うーん、築浅だし日当たりいいし…条件的にはクリアしてるんだけど、駅からちょっと遠いのが悩みどころかなぁ」
「聖奈さんほとんど電車使わないじゃん。通勤も徒歩で行ける距離だし。」
「んー、まあそうなんだけど」
「男だけじゃなくて物件にも、優柔不断なんすね。」
「な、うるさいよ!」
内見はこの物件を3軒目だというのになかなか決め切らない私。呆れた様子で見つめられて、軽く唇を尖らせた。
そんなとき。
「お客様、申し訳ありません…!」
慌てた様子の不動産屋の担当さんから声がかかる。
「どうかされました?」
「実は、他のお客様にお見せする物件の鍵を持ってきていたみたいで…、今から同僚が取りに来るので10分ほど席を外してもよろしいですか?」
至極申し訳なさそうな顔で頭を下げる担当さんに、「いいっすよ、まだ部屋見ておきたいし。」と、何故か神代くんが返事を返す。
こらこら、私の新居探しだぞ?と、言いたいところだけど、彼の言葉に異論はないので黙っておく。
「申し訳ありません…」と繰り返して玄関を出ていく不動産屋さんの背中を見送って、家具も何もないガランとした部屋に取り残された私たち。
「なんか、知らないところで二人きりって…」
「…」
「イケナイこと、したくなりますね。」
「黙れ、ど変態。」
気怠げな瞳の奥がきらりと光る。
それを見て、私は反射的に臨戦体制に入った。
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