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その後、窓際に座って待つこと5分。不動産屋の担当はまだ帰ってこない。
「遅いっすね」
「うん、もう15分くらい経ったのに。」
「これなら、最後までできたかもね」
「…あんた、さっき反省したんじゃなかったの?」
「…、冗談じゃん。」
さっきまでの潮らしさはどこへやら。
すぐそんな冗談を零しては、こちらを挑発するようにべ、と舌を出すこいつは、本当に掴めない。
「その舌ちぎるわよ」
「んー、噛みちぎってくれるなら、ワンチャンあり。」
「ないわ!…ペンチよ、ペンチ!ペンチで引っこ抜くの!」
「うわー、それは痛そう。無理だわ。愛がない。」
なら、噛みちぎるのには愛があるのか、と聞き返したくもなったが、「なら、試してみる?」とか言ってまた暴走されそうだから、グッと口を噤む。
「で、結局のところ部屋は?どうするんすか?」
先ほど無視してしまった質問。
再度投げかけられて、「そうねー」と渋い声を出した。
部屋の雰囲気も気に入ったし、セキュリティ的にも万全。
…なんだけど、徒歩通勤とはいえ、やっぱり駅が近くにあると何かとありがたい。
もう少し探せばもっといい物件があるんじゃないか、という気持ちが捨てきれず、思う存分優柔不断を発揮しているところだ。
腕組みをして悩む私を横目で一瞥した神代くんは、呆れたような短いため息をついて、隣に座る私の手をおもむろに握る。
少し驚きつつ神代くんの顔を見上げると、彼も真顔でこちらに視線を向けていて。
「ね、うちに住んじゃえば?」
「は?」
なんてさ。冗談は冗談っぽく言って欲しい。
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