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神代くんの背中に腕を回す。
狂おしい気持ちを込めてぎゅうっと彼に抱きついて、僅かに涙の混じる声を震わせた。
「私…神代くんには、嫌われたくない。」
「…」
「他の誰に裏切られても耐えられるけど…、神代くんにだけは…裏切られたく…ないんだよ、」
私を抱きしめていた腕が緩み、私も同時に彼から少しだけ距離を取る。
私を見下ろす彼の双眼に、私の瞳は捉えられて。
「…ねぇ、何?…それ」と、彼が困ったように眉を下げるから…、
きちんと伝わるように、彼を見上げて呟いた。
「これ以上、…好きにさせないで?
…失うのがどんどん、どんどん…怖くなっちゃう。」
「…っ、」
こんな彼は、初めて見たかもしれない。
私の言葉に目を見開いて、火が出そうなほど顔に熱を集めた彼は、手の甲で顔を隠して、私から後ずさった。
「…ちょっと、急に…可愛いこと言うの反則。」
「…え?」
「聖奈さんのそういうの、爆発力やばいって…」
「…」
ぶつぶつ言いながら、私から距離を取る神代くんを追うように腰を浮かせれば、「ちょっと、タンマ!」と勢いよく広げた手のひらを差し出されて。
“待て”をされるのはこんな気持ちか、と予期せず彼の気持ちを体験する。
数秒が経って、「あー、心臓イテェ」とぼやきながら私に向き直った神代くんは、バツが悪そうに床を見つめていて。
「一緒に…住むのは、一先ず諦めます。」と一言。
「え?」と聞き返そうとした瞬間、玄関の方からガチャっと音が届いた。
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