7月(1)

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7月(1)

 麻衣と宮野は、同じチームの先輩と3人で他店舗のイベントの視察と応援にきていた。 麻衣が好きなテーマパークのキャラクターの周年イベントであり、展示や物品販売もある。イベント限定商品もあり、麻衣は仕事でありながらもとても楽しみにしていた。レイアウトの写真を撮ったり、イベントの責任者からヒアリングしたりと麻衣は積極的に動いていた。  自分の所属している本店でも、催事はこれまで何度も実施していたし、準備作業も手伝ってきたが、こういった周年イベントといったものは扱ったことがなかったので、麻衣は少し興奮していた。出張中の一日の内容を、業務日誌としてまとめ、上司にメールするのだが、これは宮野が担当してくれていた。 メールする前に、先輩と麻衣も横について内容を確認する。自店の場合は業務フロアの打ち合わせコーナーを借りてやれば良いのだが、競合店舗の様子を調査にいって直帰した後のまとめが、外ではむつかしい。競合調査しているという話の内容もだが、自社の情報が外に漏れるようなリスクは避けなければいけない。あいにく、宿泊先のホテルには、打ち合わせに使えるようなスペースが無く、フロントにもソファが2脚ほどあるものの、ノートパソコンを広げて打ち合わせるのは憚れる。 「じゃあ、自分の部屋でいいですか。女性の部屋に入るのも、何か・・・あれなんで。」 「え・・・、いいのかな」 「あ、ちゃんと、ドアは開けておくので。」  そういって、先輩と麻衣が訪ねるときは、ドアロックをはさんで、すぐ開けられるような状態にしておいてくれた。  出張の最終日、先輩は別の予定のために一足先に本店へ戻ってしまったが、店舗の人が打ち上げを開催してくれ、現地の名物料理を堪能した。おいしい料理に、ご当地焼酎も振舞われ、すっかり気持ちがよくなった二人は、ホテルに戻る前にコンビニに寄る。 「あー、おいしかった。私、アイスクリーム食べよ」 麻衣がショーケースの中を覗き込む。一方で、宮野は冷蔵庫の扉を開け、缶チューハイを2,3本カゴに入れていた。 「あれ、まだ飲むの?」 「ちょっと、飲み足りないんで。・・・里見さんも、どうですか。」 と言われ、麻衣も軽めのお酒を選んで、宮野の持っているかごに入れた。 ホテルの部屋へ戻ると、宮野はすぐにパソコンを開いた。麻衣は驚く。 「あれ・・・。今日の分、まだやってなかったの?」 「途中で、書き忘れた内容があるのを思い出して・・・。気になって、あんまり飲めなかったんです。すぐ終わりますから、そこ座って先にやっててください。できたら、チェックしてもらうんで」 「先にって・・・そういうわけにはいかないでしょ・・・」 といいながら、麻衣は、コンビニの袋から自分の選んだ飲み物を取り出し、プシュ、と開ける。宮野の向かいに座って、ぐいっと口に運んだ。 「・・・里見さん、酔ってますね。」 宮野は、呆れたように目を向ける。麻衣はかまわず飲む。 「だって、座っててっていったじゃん・・・。」 座った足を組むと、宮野はさっと目を逸らす。 「はい・・・。じゃあ、出来たら声かけます。」 「ん。」 麻衣は、缶をテーブルに置いて、背もたれに手を置き、体をもたれかける。宮野は、自分のメモをみながら、パソコンに向かっている。麻衣は、うっかり目を閉じてしまった。
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