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8月(1)(※)
出張から帰って一週間後、予定していた夏休みに、麻衣は直紀と温泉旅行へ来ていた。いろいろと意見を出し合い、直紀が「部屋に露天風呂のついている旅館に泊まってみたい」と言った案に、麻衣も「行ったことない!」と賛成し、旅館を探した。二泊三日で、温泉街でゆったり、外湯めぐりをしたりして、楽しむつもりだった。
空港で待ち合わせをして、飛行機に乗り込む。
「そういえば、出張はどうだった?」
と直紀に尋ねられ、ドキリとする。
「うん、楽しかったよ。勉強になったし。うちにも今度、回ってくるから気合入っちゃう。」
麻衣は笑顔を作る。
「麻衣は真面目だなあ・・・。出張といえば、まあ、仕事なんだけど、もっと楽しむことあるでしょ。」
「え・・・」
「なんか、うまいもの食べた?ご当地グルメは抑えとかないと・・・。」
直紀が笑う。麻衣もつられて笑顔になる。
「あ、そっちね。もちろん、いろいろ食べたよ・・・」
出張から戻ってから、宮野は少しそっけないものの、仕事上はいつも通り接してくれているようだった。だから、麻衣も、何もなかったこととして、同僚の一人として接するようにしていた。
空港について、ご当地キャラと写真を撮り、ご当地ラーメンを食べて、シンボルともいえる城を散策していると、あっという間に時間が過ぎる。夕方、宿に到着し、部屋に入ると、雪見障子から小さな露天風呂が見える。
「わ、ほんとにお風呂ついてる」
「そりゃ、そうでしょ。そういう部屋探したんだから・・・」
直紀が笑う。
「これだと、部屋から、入ってるところが見えるじゃん・・・」
麻衣がつぶやくと、直紀がにっこりと笑いながら肩をたたく。
「どうせ、一緒に入るでしょ。」
小さな洗い場の横に、二人がゆったり入れそうな岩風呂がある。眼前には、山の緑が広がる。
「もう、入る?」
後ろで直紀が囁く。
「夕食は、六時半に、食事処だって。」
「大浴場もあるんでしょ?そっちも、入りたいな・・・」
「・・・混浴も、あるみたいだよ。」
驚いて麻衣が振り返る。
「うそ・・・」
「ほんと。・・・入りたい?」
「・・・それは、恥ずかしい・・・」
「ここで一緒に入れるしね。・・・俺もやだ」
そういって、備え付けのタオルと浴衣を出す。
「じゃ、夕食の前に、汗流してこよっか。」
麻衣がうなづく。
夕食は、囲炉裏で焼きあげた地場の牛、豚、鶏、鮎。自家製の梅酒はすっきりしていて、麻衣はほんのりと頬を赤くする。
「おいしい・・・」
「うん、おいしい」
「こういう、土地のものを紹介するのもいいよね・・・」
「うん、家で故郷のものを味わえるのとかって、やっぱり人気があるよ。」
酔い覚ましにと、宿の庭を散策してから部屋に戻ると、布団が二つ用意されていた。麻衣がどきりとして何か言おうとしたところに、直紀が後ろから抱き着き、うなじにキスを落とす。
麻衣の手を引き、布団の上に胡坐をかいた自分の膝のうえに、麻衣を乗せる。
「風呂は、あとで。」
麻衣がなにか言おうとした唇を塞いで、浴衣の中に手を入れる。肩紐をずらして、麻衣の胸に触れる。
麻衣の動悸があがっていく。舌をくるくると回されて、麻衣の唇が大きく開いていくと、直紀は麻衣の体を布団の上にそっと下ろす。
「ちょっと、待ってて」
直紀は立ち上がって、自分の荷物をあさる。手に避妊具を持って、布団の脇に置くと、部屋の明かりを落とした。
「じゃ、再会・・・」
麻衣に口づけて、浴衣の帯をほどいた。雪見障子から差し込む月明かりが、うっすらと麻衣の体を照らす。直紀は、両手で自分を体を支えるようにして、上から麻衣の体を見下ろす。
「ずいぶん、久しぶりじゃん。3・・・4か月ぶり。ちょっと、痩せた?」
片手を麻衣の胸に添える。
麻衣は手の甲で顔を隠す。
「ん・・・」
「早く、会いたかった。休みが待ち遠しくてさ・・・」
「私、も・・・」
「ほんと?・・・俺だけじゃない?」
そういって、手を添えた胸に舌を這わせる。麻衣の体がぴくりと揺れる。
「ない、よ・・・」
両手で直紀を抱きしめる。なめらかな肌、細く柔らかい艶のある髪の毛の感触を指で確かめる。本当に、綺麗だと麻衣は思う。
「直紀・・・」
名前を呼ぶと、口づけが落ちてきた。体中に次々と口づけられて、麻衣がとろけた視線を向ける。
直紀が中に入ってくる。麻衣が直紀の腕をつかむ。ああ、直紀だ、と思う。目をうっすらと開いて、自分の上にいる直紀を見つめる。腕を伸ばして、直紀の肩に手をかけると、直紀が麻衣に体を寄せて密着させる。体温と、汗を感じて涙があふれそうになる。このまま、離さないで、と心のなかで願った。
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