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ある雨の日のこと。
私は自宅で絵を描きながら暇を持て余していた。
私には二人の幼稚園児がいて、彼らもまた同じく退屈そうに過ごしていた。
――時間は14時50分。
まだまだテレビを見せるには抵抗のある時間だ。
雨の日の密室空間での子どもとのかかわりが苦手な私は途方に暮れていた。
そんな時、子どもたちが突然叫んだ。
「お母さん!しろげがあるよ!」
「あ。しろげだ!」
…確かにしろげなのだが、大人の思考に至ってしまう私はつい
「――――白髪、ね。」
と、正しい言葉を教えようと反射的に答えていた。
私はまだ36歳。若いつもりでいるけれど、身体の衰えは待ったなしでやってくる。若い気持ちを持ちつつも、もう年なのか。と悲哀を感じていた。
我に返ると、子どもたちが私の頭を観察しながらしゃべっていた。
「俺が引っこ抜いてあげる~。」
小さい子どもの慣れない手つきでしろげをゆっくりとつまんでいく。
私は白髪だけつまめたら教えてと伝えるが、子どもたちは苦戦しながらしろげと戦っていた。
やっと「つまめた!」と言われたので、その毛を引っ張ってみるが…案の定、くろげだった。
「あ。違った。」
このやりとりがしばらくの間リピートされていた。
はじめは笑って過ごしていたが、徐々に私の笑い声は消え、子どもたちだけ明るい調子が続いていた。
「あった!しろげ!あった、あった!」
(……本当か?)
何度この同じやりとりをすればすむのか、私は少しうんざりしてきた。
「行け~!取ってやる~!」
子どもがゆっくりと引っ張るので軽く痛みを感じた。じわじわくる割には一向に取れる気配がなかったので交代して引っ張るとまたしてもくろげ。。。。
私は「またっ!くろげじゃん!!」と、子ども相手に声を荒げた。
すると、「お母さんがミスっただけじゃん!!」と、僕は無罪ですといわんばかりの主張をしてきた。
くろげ:しろげは5:1の割合で取れていった。
「ほれ、これ、しろげなんすけど?」
「しろげなんすけど?」
やっと取れたしろげに、子どもたちは誇張して言い放った。
彼らの顔は清々しい笑顔になっている。
にっこりと笑って私にしろげを渡してくれた。
取る必要のなかった元気だった黒髪としろげを見つめながら私は口角を上げて言った。
「…しろげ、取ってくれてありがと。」
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