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この集落に来てから十年ほど経つ。作物は毎年順調に収穫できているが、その多くを隣町に搾り取られている。
二年ほど前、隣町の長が代替わりをした。今度は上手くいくかもしれない。淡い希望を抱いたが結局何も変わらなかった。代替わりと同じ頃、集落の指導者は若者を中心に無能と蔑まれるようになった。そして今日、あいつは殺された。
身勝手にも程がある。都合の良いときだけ祭り上げ、結果が伴わなければ不要だと切り捨てる。あいつはいつだって集落のために生きていたというのに。
ただ、本当に憎いのは何もできなかった僕自身だ。僕にできることは全てやったはずだ。それでもなお、結末を変えることはできなかった。その事実が、お前にヘルトの隣はふさわしくないと告げているようで身が震える。
僕が代わりに死ねばよかった。いやむしろ一緒に死ぬことができたらよかったのに。
ふいに右頬の冷たいものに気づいた。右の目頭から鼻に沿って続くそれは、紛れもなく涙だった。拭うと渦巻く心が不思議と落ち着いていく。僕は封筒から手紙を取り出し広げた。
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