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ヴァイスへ
俺の力不足のせいでこんなことになってしまった。すまない。己の力を過信し軽率な行動をとった結果、俺は多くの民を傷つけ集落を変えてしまった。もし俺の命で民の心が救われるのなら本望だ。
お前は違うだろう? お前の医術は命を救える。生きてたくさんの人を救え。
というのは建前だ。ひとりの人間として、心の底から信頼する無二の友に生きていてほしいと思う。
世界は理不尽で残酷だ。疫病や自然災害からは逃げられないし、人間の愚かさを知っていてもひとりでは生きていけない。
俺は、民を憎んでいる。勝手に期待して勝手に失望した彼らが、どうしようもなく憎い。
なぜだ? 俺たちは民のために力を尽くした。作物の収穫量は増えた。人口も増えた。集落は豊かになった。全て忘れてしまったのか?
分かっている。悪いのは彼らだけじゃない。指導者となり万能感に酔っていた俺にも大きな責任がある。俺たちの力を求めてくれるのならどんなこともできる。そう思い込んでいたんだ。頭で理解していても心から憎しみが消えることはなかった。
それでも俺は、この世界が美しいことを知っている。お前と旅を始めた夜明け、ゆったりと風に揺れる黄金の麦畑、出会った人々の笑顔。忘れられない景色ばかりだ。
お前は俺が死んだと思っているだろう? でも違う。俺はいつだってお前と一緒だ。
だから、お前のその目で証明してくれ。この世界は美しいのだと。
ヘルトより
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