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第一章
遥か昔、この世界には『海』と呼ばれるものが存在したらしい。
青くて、冷たくて、塩辛くて、世界のほとんどを『海』と呼ばれる水で占めていた。
僕達は生まれたときから空の世界しか知らない。
浮遊物質の影響で雲の上に浮かぶ大陸、天空都市フラマリアの世界でしか生きたことがない。
『海』に憧れがないと言えば嘘になる。図書館の本で見つけた『サカナ』や『クジラ』と呼ばれる生物の絵には、どこか心がとてもわくわくした。水の中を泳ぐ。というのはどういった感覚なのだろうか。空気の中を泳ぐ、あの感覚と似ているのだろうか。
『地上』の世界があるということは文献にも残っているし、授業で誰しもが習うことだ。
空へと浮かばない『地上』に広がる『海』には、一体どんな景色が待ち構えているのだろう。
そのとき、ブブ、ブブブ、という大きな羽音で目を覚ます。
「ごめん、レイピア」
人間の五倍ほどのサイズがある大型ミツバチ、レイピアの首元にぶら下がった木製のカゴの中から空を眺める。雲の上には景色を遮るものなんてない。あるのはただ、ただ、どこまでも広がる空と、大小さまざまな形の浮遊大陸だけ。とても見晴らしが良かった。
防寒具をこすりながらギチギチと鳴くレイピアに急かされて本来の目的を思い出す。
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