第一章

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 風がやわらかで、目をスッと覚ましてくれるほどの冷たさが気持ち良い。  そのときだ。ギチギチ、ギチギチ、とレイピアが警戒音を発した。 「……レイピア?」  空を泳ぐことを一旦やめて、静かに辺りを見回す。  ひゅう、ひゅう、と風を切る音が強まった。  薄まっている雲の向こう、何者かの影がこちらに近付いていくのを捉える。  ふっ、と影が消えたのを確認して大きく息を吐いた。 「空害か?」  遥か昔から空の世界には空害と呼ばれる化け物が存在していた。  爆弾の卵を産むニワトリや、雲と見間違うほどふわふわなウサギなど、どうして空を飛べるのかわからない生命で溢れていた。普段は人間の住む天空世界にやってくることはないけれど、時々、狭間の雲が薄まる瞬間に進入を許してしまうときがある。  他にも、伝承の中だけの存在とされている『ドラゴン』がこの世界にはいたらしい。  この星の始まりと共に生まれて、『地上』に終わりをもたらした生命体。  僕は昔から、今だってそんなものはおとぎ話だと信じていなかった。みんなそうだろう。 『ティアーズ』では一応、やむをえず空害と遭遇してしまったときのために、ある程度の戦闘訓練は積んでいるけど、緊急事態外での交戦は原則禁止とされている。
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