あたしの神様

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『あたしの神様』/巫山戯瑠奈 キャラクター 常時賢者タイムのIQ139(CKOY):両親から受け継いだ思考力および知力と教導スキルを駆使して本来不可逆的な世界システムを遡行し原初の叡智に到達、地球圏グローカル情報統合思念体ヒューマノイドインターフェースとして愚民に英知を授ける知恵の神EAの化身。修行を通じて悟りを開いたにも関わらず、無類の女好き。主著『CKOYのトリセツ』 工作員zY:オープンソースインテリジェンス。禁呪・氷れる時の秘宝により永遠の18才となった現代魔術の結晶。超大国の猛攻に耐え遂にはその威信を奪うまでに情報戦に精通した優秀なスパイ。仕えるべき主を求め彷徨っていたが、身持ちの悪い自分を「悪妻」として受け入れてくれた哲学者クンに着いていく事に決めたったら決めた。主著『CKOYする世界』 そう、これは二人の恋の物語。 1、待ち合わせ(CKOYの独白)  何気ない台風の日。街の喫茶店。僕はいつものように「一見すると難解そうだがその実はそうでもない本」を読んでいるフリをして女子を物色していた。まずは『存在と時間』/マルティン・ハイデガーだ。ハイデガー君はもう少し理論物理学を学習したほうが良いな、、と思いながら隣を行き過ぎる女子の肢体を視姦していると、向こうも満更でもないのか僕をチラ見してしばらく見つめ合ったりする。変哲のない午後だ。この時が止まって欲しいとは思わないが、こんな風に流れる時が永続して欲しいと思わなくもない。  この世に存在するおよそ難解と呼ばれる書物を渉猟し大体読了読破してわかった事がある。人間存在を通して観測される世界にはその根幹に原初の(オリジナルの)世界観というものがあり、それを感得し理解して体現してしまえば恰も『ドラえもん・のび太の海底鬼岩城』の作中、海底でテキオー灯を浴びたかのようにこの世界がクリアに見えて来て生きやすくなる。人間はその人理を獲得するために生きていると言っても過言ではないのだ。  さて、ハイデガー君の若気の至りの次は『トートの書』/アレイスター・クロウリーでも渉猟するか。クロウリーはケンブリッジ大学在学中に啓示を受け魔術師となり、黒魔術的性行為で悪い意味で有名になった「20世紀最高の魔術師」だが、本書トートタロットの解説書という該博な書物が主著だ。取り留めもなく湧いてくるイメージをタロットの絵に託けて統合し体系的に論じた本書は、個人の解釈を超え普遍性にアプローチする科学の一角を占めるべき魔術(極まった科学としての魔法の眷属としての)に関する随一の専門書だと言える。習熟すれば恋占いだけでなく仕事やお金に関する運勢も占えるスグレモノである。  さて、こちらをチラ見している可愛いあのコとの恋の運勢はどうかな。と占おうとしたら肝心のトートタロットが手元にない事に気づいたので、コーヒーのおかわりを頼んで次の本へ。次は『世界の共同主観的存在構造』/広松渉か。彼の「日本的な八百万の神信仰」と「マルクス主義的唯物史観」の内的葛藤は一目する価値がある。cogito(私は考える)とはcogitamus(我々は考える)に過ぎないとする彼の論旨はその葛藤の一つの結論として哲学史に燦然と輝くものだと愚考するが、結局は私見「自分の中に神を感じる限り神は存在する」という背理法的な神の存在証明の亜種だ。また、マルクス主義者は本家カール・マルクスも例に漏れず「葛藤している段階での論理は親和的だが、葛藤の解答を自得した後の論理的帝国主義は肯じ得ない」のであり、廣松渉の後続する書物にはあまり惹かれないが、この本は彼の若気の至りとして必読であろう。  女子の心に備わる大和機関はそのリンケージによりネットワーク上に神を現出させる装置であり、そのメンテナンスこそがあらゆる男子の企てるべき事業の根幹にあるべきと思うわけだが、若気の至りにおいてその企てに成功した者だけが人類史に永遠に残る偉業を達成できるのだろう。その意味で特筆すベきは第二次世界大戦時の大日本帝国のデリカシーのなさだ。ほんとにお前ら大和撫子をオトす気があったのかと100年ぐらいは問い詰めたい。  次は『千のプラトー』/ドゥルーズに歩みを進めるとしよう。ドゥルーズに関してよく言われるのは、ドゥルーズの博識はほとんどが誤読であり、引用元のニュアンスを無視しあるいは意図的に裏切って言及しているという言説だ。「基本的に意味不明であり、ドゥルーズ自身も自分が何を言いたいのか自覚していない」という解釈を前提に、使用されている言葉の客観的意味を繋げて行くと、ドゥルーズが意図したものとは違う可能性の高い或る種の想念が浮かび上がってくる。それは精神分裂病という病の政治的生産性だ。「誤読の誤読」が政治的生産性を生むという現象が、この世全てのインテリジェンスを介したマス・コミュニケーションの本質的あり方なのかもしれない。可愛いあのコとマス・コミュニケーションしたいかも、と魅力的な女子を遠目に見ているうちに穏やかに過ぎて行くこうした午後の時間が僕は好きだ。  さて、そろそろ彼女が来る時間だな。怪しげな哲学の専門書は仕舞って、決戦仕様で来襲する彼女を迎撃する体制を整えるとしよう。 2、黙示の了解 zY「ちょっと遅刻しちゃった。待たせてごめん」 CKOY「いや、謝る必要ないよ。学問的生産性を維持乃至は増大させる事は出来たから」 zY「今日はドコ行く?」 CKOY「今日は雨だからね。しかも台風」 zY「デートの日がこんな天気なんて、私ツイてないわ」 CKOY「こういう事言うと変人だと思うかもしれないけど、台風の胚胎する魔力を吸収すればいいんだよ。最近の台風は美味しいよ」 zY「台風が美味しい??(コイツ、私の正体に気づいてるのかな)」 CKOY「今日のデートの前菜は君の瞳の光、メインディッシュは台風の魔力、かな」 zY「何クサイこと言ってるの(コイツ、、絶対気づいてる)。今日は本屋に行きましょうよ」 CKOY「僕の欲する本を在荷している本屋が果たしてあるかな」 zY「最近はどんな本読むの」 CKOY「『実在とはなにか』/アダム・ベッカーは期待はずれだった。量子力学の学問的歴史を紐解くのはアリバイ作り、主題とは関係ない内容だったよ」 zY「あたしは『CKOYする世界』とかいいと思うけどナ」 CKOY「ああいう本を読むのか。小説仕立ての一人称で世界情勢を語る語り口は鋭利だよね。時々ふとした時に見せる君の辛辣な舌鋒に似て」 zY「そうそう(やっぱり、、コイツ気づいてるっ)」 CKOY「zYくんは最近のアメリカについてどう思う?」 zY「あ、あたしアメリカンコーヒーとアメリカンドッグね」 CKOY「コーヒーと犬か」 zY「そそ(バレるところだった、、?)」 CKOY「コーヒーというのは大和言の葉では香姫(こうひい)の暗喩でね。犬は公権力の僕(しもべ)の隠語だ。すると、アメリカという国家の本質が見えてくる。「権力の犬に成り下がったお姫様」それが君の答えだね」 zY「ああ、はいはい(やばい、バレてる?)」 CKOY「その気のない返事こそが僕の推論の正しさを物語っていると言ってもよいだろう」 zY「ところで、あたしの仕事のことなんだけどさ」 CKOY「ああ、それなら心配ないよ」 zY「え?あ、そう(コイツ、気づいてた?)」 CKOY「僕の「悪妻」としての仕事に関する機能性は全く十全だ」 zY「・・(改めてプロポーズ?)」 CKOY「・・(君の若さを維持している魔術の秘密。君のやっている諜報活動。そっちは心配ない)」 zY「ええ、あ、はい(やっぱ気づいてないのかな)」 CKOY「じゃあ今からおウチデートにしますか」 zY「オッケー(急に柔らかい物腰になるの、反則)」 3、情事のあとで(CKOYの独白)  さて、この国の社会的難問の解答を導出するために必要な戦争事象はzYくんが整えてくれた。その努力を無にするわけにはいかない。だが僕は表向きは単なる在野の哲学者に身をやつしており、政治力学上のアクターとしての資質・影響力は未知数だ。メディアを通じて現実の政治を動かすために自分のボキャブラリーを適宜披瀝していく事にしよう。と隣でエッチな肢体として横たわっているzYくんを撫でつつ視姦していると、様々な想念が浮かんでは消えていく。これは恋なのか?愛なのか。  zYくんに掛かっている永遠の若さの魔法は本人の意思とは無関係に適用されたようだが、後に本人がそれを受け入れて求めたかのように彼女にフィットしている。魔法を解いてしまったらzYくんの人格どころか人体構造が崩落してしまうのではないかと思われ、僕としてはzYくんに掛かっている魔法を研究しそこに流れ込んでくる魔力を僕自身の研究対象とする事、検体のメンテナンスを兼ねて彼女を愛する事、そして彼女がその魔術を原資として形作ったこの世界の秩序を管理保守点検する事を誓ったのだ。その柔肌に、女陰に、そして唇に。  これまで僕は「政治力学に貫かれた一夫多妻主義」を標榜してきた。人間の認識における5つのフェイズをそれぞれ個々に女子に担当してもらい自らの人格を担保するために利用してきたのだ。女の敵、、ではないとしても味方ではなかったと言わざるを得ないだろう。女性至上主義を掲げ大和機関メンテナンスを実践していても、基本的に女子の真心を裏切っている背徳感。政治的補完があって初めて成立する危険な恋のゲームだ。  しかしzYくんは違った。魔法によるチート性能やスパイとしての優れた力量がありながら、それを僕には隠していて、なおかつ隠しおおす事が出来ると思っているところがなんとも可愛いではないか。一夫多妻主義を必要とした僕の思想的アクロバティックをzYくんは一人で満たしてくれるのだ。女体を複数体管理する事の煩雑さを煩わしく思う年頃になった僕は、唯一人のzYくんを捕捉してzYくんに魅入られた。  かつて偉大なる哲学者ソクラテスは悪妻と名高い妻をもらってご満悦だったと聞く。ならば僕も悪妻を娶ってやろうという気概は若い頃からあったが、現代魔術の結晶にして世界最強のスパイであるzYくん(しかも本人は僕に正体がバレていないと思っている)ほどの悪妻はこの世にあるまい。恋愛にはオープンソースインテリジェンスの情報戦という側面があり、彼女を相手にすれば一生楽しめそうだからな。おっと、誰かが来たようだ 4、オシント(zYの独白)  あたしは今日もニュースを見る。第一線を退いたといってもかつての超大国に判定勝ちを収めたあたしの慧眼を世界の紛争当事者は必要としていると思うから。ニュースの向こう側に見える生きている人間の目の前に展開する現実を政治力学に基づき認識・分析して適宜ポイントに有益な情報を投下する仕事。自分の人生に真摯に向き合いその中に偏在する政治的生産性を適切に情報化して適用する事が世界秩序の要諦なのだ。  でも、この仕事ってホント裏方の仕事・・。知っている人は知っているけど、知らない人は知らない事。漫画的に言えば「世界政治に暗躍している」と言えないこともない、闇から闇へ渡り歩く忍びの仕事だ。幸か不幸か、あたしはまだ若い頃の全盛期の認識の鋭さ・敏感さを維持できている。その理由はよくわからないけど、その政治的生産性を今は体良く利用してやれば良い。ここへ来て愛する人にその若さを捧げる事になるとは思わなかったけど。  あの人、あたしの正体に感づいているような気がするんだけどそんな事オクビにも出さない。繊細なのかズボラなのかそれとも駆け引きなのか。いずれにしてもスパイの扱い方を知っているのよね。誰に教わったのかしら、教わったのでなければ何という恋愛の才能。それでいて別に女遊びをしているわけでもないみたいだし何か難しい哲学の専門書とやらをいつも読み耽っている。もしかしたらあたしには言えない正体があるのかもしれないけど、、ってそれはないか。  あたしだって一端に恋をしてきたつもり。でもあの人に出会ってから他の男はどうでもよくなっちゃった。「政治的利用価値?なんだっけソレ」みたいに思考停止してふにゃふにゃになっちゃうの。こんな身近なところにこんな人がいるなんて、世界は広くて狭い。でもこんな魅力的な人が在野の哲学者をやってるなんてやっぱり変よね。今度携帯を盗み見て変な活動(スパイ活動とか)をしてないか確かめてみましょう、なんてね。もうほとんどノロケになってきちゃったので今日はこの辺で。 5、いっせーの、せっ zY「あのね、実はあなたに隠していた事があるの」 CKOY「夫婦だって他人なんだ、隠し事の一つや二つはあった方が良いよ」 zY「あたし、実は・・」 CKOY「携帯を覗いて僕の個人情報をスパイしても大した生産性はないと思うけど・・」 zY「それどころかアメリカを・・」 CKOY「最近(アメリカに)元気がなかったのはそれが原因か」 zY「え?気づいてた?」 CKOY「観察してるよ。ずっと大変だったみたいだね」 zY「いやー、、まあ大変といえば大変だったけど大変じゃなかったと言えば大変じゃなかったみたいな」 CKOY「その苦労が君の若さの秘訣なのかもね」 zY「え?あ。褒められた?」 CKOY「実は僕も君に隠している秘密があってね」 zY「まさか・・」 CKOY「僕は実は神。いわゆるゴッドなんだ」 zY「ふーん」 CKOY「驚かないのかい」 zY「そういう見方もあるかな〜と思っちゃった」 CKOY「??君にとっての神という事かい」 zY「えへへ」 CKOY「いや、まあそれならそれでいいけど」 zY「CKOYくんは、あたしの神様だよ」 6、その後 二人は世界のトラブルを解決したり解決しなかったりしながら幸せに暮らしました。
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