一章. 前夜

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一章. 前夜

そこそこ名のある設計事務所。 入社2年目の僕に、チャンスが訪れた。 大手のエンターテイメント会社TERRA(テラ)から、新しい保護施設の依頼を()け、僕の描いたデザインが選ばれたのである。 コンセプトは、和の未来。 最先端のシステムと木の温もりを調和させた。 …つもり💦 「変わり者とは聞いていたが、あのTERRAの社長さんが、お前の奇抜なデザインをまさか採用するとはな」 「はい。自分でもまだら信じられないです」 「ほらほら、今日中に建築業者さんへ設計図のデータを送るんでしょ!」 「悪いなぁ、沙織。俺は今から出張で、今日は皆んな在宅ワークだから、ラスチェク頼むわ」 「分かりました、お気をつけて」 森 沙織(さおり)さん。 …確か43歳。 入社から僕の指導をしてくれている大先輩。 そして…大切な恋人。 と言いたいけど、まだ片想いである。 初日に「惚れるなよ」と言った社長の言葉。 正直その言葉が、一目惚れの後押しだった。 年上とは分かっていたけど、他の先輩から聞くまでは30歳いってるかな〜?と思っていた。 実力も確かだが、その明るさと綺麗な容姿に、惹かれたお客様も多いと聞いた。 若くして離婚し、高校生の息子がいるらしいが、自分のことは全く話さない彼女。 正直、別れた男の気持ちが理解できなかった。 優しくて元気で、いつも笑顔の沙織さん。 ずっと一緒に仕事をしている内に、当たり前の様に恋して、愛していた。 そんな僕の気持ちに、大人の彼女が気付かない訳はなく、二人の時は椅子を寄せて来る。
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