45人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章 女装剣士の誕生
クビになったショックでその日は一日中寝込んでいた。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかず、新たな職を探して町を毎日駆けずり回った。
僕が一人身で良かったと今だけは思う。
他の誰かに迷惑をかけず、苦しませずに済むから。
しかしアルゴス商会の根回しは相当のものだった。
鉱石素材の取引を専門とする商会の中では、このイージス州の中心部でもトップのシェアを誇るため、大商会と認識されておりその影響力も大きい。
だから僕が護衛の仕事をしようにも、リン・カーネルという名を聞いただけで、どこも雇ってはくれなかった。
それどころか、リン・カーネルは護衛でありながら、取引相手に取り入ろうとする卑しい男なのだと事実無根の噂まで広まっている。
今では町中を歩くのすら億劫だ。
「はぁ……」
その日も肩を落としてトボトボ歩いていると、いつの間にか人気の少ない路地のほうまで来ていた。
店の多く立ち並ぶ大通りから離れていくに連れ、活気はなくなり、薄暗い雰囲気が漂って来る。
ここからさらに奥へ進んで行くと、闇市場と呼ばれるアンダーグラウンドな世界が広がっているらしい。
最初のコメントを投稿しよう!