第一章 女装剣士の誕生

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第一章 女装剣士の誕生

 クビになったショックでその日は一日中寝込んでいた。  だが、いつまでもそうしているわけにもいかず、新たな職を探して町を毎日駆けずり回った。  僕が一人身で良かったと今だけは思う。  他の誰かに迷惑をかけず、苦しませずに済むから。  しかしアルゴス商会の根回しは相当のものだった。  鉱石素材の取引を専門とする商会の中では、このイージス州の中心部でもトップのシェアを誇るため、大商会と認識されておりその影響力も大きい。  だから僕が護衛の仕事をしようにも、リン・カーネルという名を聞いただけで、どこも雇ってはくれなかった。  それどころか、リン・カーネルは護衛でありながら、取引相手に取り入ろうとする(いや)しい男なのだと事実無根の噂まで広まっている。  今では町中を歩くのすら億劫(おっくう)だ。 「はぁ……」   その日も肩を落としてトボトボ歩いていると、いつの間にか人気(ひとけ)の少ない路地のほうまで来ていた。  店の多く立ち並ぶ大通りから離れていくに連れ、活気はなくなり、薄暗い雰囲気が漂って来る。  ここからさらに奥へ進んで行くと、闇市場と呼ばれるアンダーグラウンドな世界が広がっているらしい。
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