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第6幕 前座
ベルリン・ミッテ地区の奥まった路地にある、三階建ての建物は、白いゴシック式の屋根のついた狭いアパートメントに似た造りであった。
その三階に、数日前から仮設の稽古場が備え付けられた。
軽い曲線を描く、黒い天井。
部屋の前部で臨時に雇われた劇団員たちが白熱の演技を見せている。
奥に備え付けられたアップライトピアノで伴奏者が奏でる不気味な効果音が、その迫力を増大する。
世情の後ろ暗さを暴いたストレートプレイだ。
部屋の後部にしつらえられた長机には、二人の人物が腰かけている。
「カット!」
今しがた響く声を発した、しゃれたスーツ姿の脚本家と、
「休憩にしましょう」
美しい黒髪を今日は首元にしまった、主役も兼任する座長である。
座長、グロリアはパイプ椅子に足を組み、テーブルの上のコップの水を口に含みながら、脚本家に向きなおり、それにしてもと、束の間の歓談を始める。
「血祭りにあげられそうになったベルリンに戻ってくるなんて。あなたももの好きね」
脚本家はにやりと太めの眉を上げた。
稽古場にも小洒落たスーツ姿。
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