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実は彼、ナチスに目をつけられてバイエルン地方に逃げのび、また祖国に戻ってきた児童文学作家、エーリヒ・ケストナーだったりする。
「命の恩人が、こんな壮大な芸術作品にとりかかっているんだ。作家として力を貸さないわけにいかないからね」
この洒落者の作家は、バイエルンに逃げるときに知恵を貸してくれた恩人のグロリアが、このベルリンで一夜限りの舞台を上演することをどこからか聞きつけ、わざわざ危険な地に舞い戻ってきたのだ。
「いいねぇ。役者も演出効果も音楽も、美術も。どれをとっても作品のおどろおどろしさをよく出してくれている」
軽々と緑の鉛筆をもてあそびながら楽しげに演劇についての思考を巡らすその姿からは、想像だにできない経歴だが。
「だけれどね、一人、青年役がいるじゃないか。そう、今ストレッチをしている彼だよ。いささか一人だけ明るくて親しみやすすぎやしないかなぁ。全体のバランスが気になるよ」
やんわりと出された意見に、もう一人の演出家、リアは口元を緩める。
「たしかに不吉を語るシーンではあるけど、青年役はあくまでさわやかに。その方がのちの悲劇がひきたつわ」
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