第一章 目と目が合って、おひさしぶり

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「東京シティのクリスマスマーケットは、やっぱりすごいなあ……」  見上げるほど大きな入場ゲートの前で立ち止まった学生服の少年――赤星(あかぼし)マコトは、大きな瞳を星空のように輝かせた。  そこは、メトロ駅から目と鼻の先にある公園。ちょっとしたテーマパーク並みの面積を誇る敷地内には、噴水や花壇はもちろん、カフェレストランに野外音楽堂まで詰め込まれている。クリスマス前の僅かな期間だけ、そこにあるものすべてが明るく温かな光できらびやかに飾りつけられる光景は、毎年恒例の冬のお楽しみだ。マコトは、すぐにでも会場を駆け回りたい気持ちを抑えながら、まずはケータイフォン型のデバイスを起動する。 「屋台もイベントステージも回りきれないくらいあるのに、蒸気機関車やメリーゴーランドまであるなんて……あっ、ミニ観覧車!」  画面に表示された案内図と、実際の会場の風景を見比べていたマコトは、思わず大きな声を上げてしまった。慌てて周囲を見回すが、あちこちから聞こえる歓声や明るいクリスマスソングにかき消されたのか、マコトの一瞬のうっかりは誰の耳にも入らなかったらしい。隅っこで立ち尽くした男子中学生のことなど見向きもせず、年代もバラバラな来場者たちは次から次へとゲートを通過して思い思いの場所へ散開していく。またうっかり大声を出してしまわないようにと、首に巻いた赤いマフラーで口元を軽く覆ってから、マコトもその流れに続いた。 「うわ……っ、すごい」  最初にたどり着いたのは、大きな宝箱を開けたような屋台が軒を連ねる、にぎやかなエリアだった。食欲をそそる料理の匂いに鼻が反応し、独創的でカラフルなスイーツに目を奪われる。伝統的な異国のオーナメントや人形たちが売られている店の屋根の上では、トナカイや雪だるまの立体映像が、ぴょこぴょこと跳びはねていた。  ぽかんと口を開けて無意識のうちに歩調を緩めながらも、マコトは足を止めることなく通り過ぎていく。しばらく進むと、噴水の中心で堂々とそびえ立つマーケットのシンボルが見えてきた。 「これが、水上クリスマスツリー……近くで見ると本当に大きいや」  南の屋台エリアと北のイベントエリアのちょうど中間にあるクリスマスツリーは、入場ゲートからもしっかりと確認できるほどの大きさだった。よく晴れた夕暮れの空に、もみの木の緑がよく映える。これでもかと飾りつけられたイルミネーションの本来の輝きが見られるのは、残念ながらもう少し暗くなってからになりそうだ。目的の場所がまだまだ遠くにあるマコトは、ひとまず噴水の脇をすり抜けて先を急ぐことにする。 「――え?」  その瞬間、人混みの向こうにはっきりと見えてしまった。  流れるように走る、蒸気機関車の横顔。そして、その進路の先にいる、子どもの姿を。
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