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「うん、そうだよね。変なこと言ってごめん。思い出せた記憶が断片的だからかな、ちょっと曖昧な部分も多くて……」
「確かにね。アタシも、マコトと一緒にいる場面しか思い出せないみたいだし」
「えっ、ミサキちゃんも?」
不思議なことに、マコトが取り戻した異世界の記憶は、ミサキといるときのことだけだった。ミサキと見た風景の美しさや、ミサキと食べた料理の味は思い出せても、それ以外の誰かとなにかをした記憶はない。ないはずはないのに、思い出すことができない。
「なんで、こんなことになってるんだろう。これじゃあ、ほかの仲間を探したくても、手がかりがなさすぎるよ……」
「そうかしら? そんなこともないんじゃない?」
ポジティブな少女は、いつだってマコトに希望をくれる。がっくりとうなだれたマコトの耳に飛び込んできたミサキの声は、どこか楽しげな響きを帯びていた。
「現にアタシたちは、ここで再会できたんだもの」
「……あ」
ミサキの細い顎先が、わずかに上向いて指し示した先にあったものは――氷の城。異世界での記憶を取り戻した今、改めてよく見てみれば、それはあの氷の女王の居城に、とてもよく似ていた。
「はっきりした記憶がなくたって、なにかを感じることはあったのよ。だから、アタシはここに来た。マコトも同じでしょう?」
「うん。それじゃあ、ほかの仲間もボクたちと同じようにクリスマスマーケットに来て、氷の城を見に来るかもしれないってことだよね。ここで待っていれば会えるかもしれな……あ、でも」
わくわくした気持ちを抑えきれず、思わず立ち上がりかけたマコトだったが、視界いっぱいに広がる来場客を見て、おずおずとベンチに座り直した。
「これだけ大勢の人がいると、どう探していいのかわからないよ。なにか目星みたいなのはつけられないかな……」
「マコト。カールストックさんのこと覚えてる?」日本で普通に暮らしていれば、まず馴染みのないカタカナの人名。それでも、異世界の記憶を思い出しているマコトには思い当たることがあった。
「覚えてるよ、あの占い師さんだよね? ボクたちに異世界のことを色々と教えてくれた、サンタクロースみたいな優しいおじいさん」
「あの人、アタシたちのこと『選ばれし子どもたち』って言ってたわよ」
「……あっ、本当だ! 確かに言ってた! と、いうことは?」
「わざわざ『子どもたち』って限定してるくらいだもの。ほかの仲間も、アタシたちと同年代の可能性が高いわね」
「それじゃあ……」わき上がる期待に、マコトの喉がごくりと音を立てる。「ボクたちのように、泣きながら氷の城を見つめている中学生を探せばいいんだ!」
「アタシは泣いてなんかないわよ」
「えっ? ……あ、うん、そうだったね」
自分の弱みを見せることが死ぬほど嫌いなミサキは、ときどき信じられないほど頑固になる。触らぬ神に祟りなし。異世界で学んだ教訓を頭の中に思い浮かべながら、マコトはゆっくりと首を縦に振った。
「興味深い話をしているな」
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