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ふと、なにげなく視線を巡らせた少年の視線とマコトの視線が交錯する。ばちり。見えない火花が散ったと思った、その瞬間。
「タイシくん!?」
「……マコト?」
ミサキのときと、まったく同じ現象。まだ空白が残っていた心のアルバムに、新しい思い出が次々と貼られていく。かと思えば、マコトとミサキしかいなかったはずの写真の中にも、眼鏡の少年の幼い姿がインクの染みのようにじわりと映り込んだ。
「タイシくん! タイシくんだ、やっと会えた!」
「待て。どういうことだ、これは……」
二回目のマコトとは違って、眼鏡の少年――緑木タイシには、おそらく初めての経験だろう。さっきまでの変人然とした態度を一時的に引っ込めて、まるで普通の人間のように混乱している。そんなタイシに、まずはきちんと説明をしようと、再会の喜びを抑えながらマコトが口を開く。ところが。
「この変な奴、マコトの知り合いなの?」
「え――?」
すぐ隣からの思いがけない言葉に、マコトの動きがぴたりと止まった。ゆっくりとミサキを見下ろせば、向かい合うマコトとタイシを不思議そうな面持ちで見比べている。
まるで、タイシのことなど知らないといったミサキの様子に、マコトは混乱した。一体どういうことだろう。マコトが思い出せて、ミサキが思い出せないはずがないのに。
「タイシくんだよ、ミサキちゃん! ボクたちの仲間の! あの、物知りの!」
「……タイシ?」
焦燥に駆られたマコトは思わず両手を伸ばし、植え込みに埋もれていたタイシの顔を勢いよく挟み込む。「ほら、よく見て!」
「ぐぬっ」と、痛そうな呻き声を上げる生首を、まるで扇風機の角度を調整するようにミサキのほうへ振った――数秒後。
「アンタ、ぜんっぜん顔が違うじゃないの!」
眼鏡の少年をびしっと指差しながら立ち上がったミサキの叫びが、冷たい空気を震わせながら辺りに響き渡った。
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