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そう。確かにそうなのだ。小学生のタイシは、はち切れそうなほどふっくらとした頬と、その頬に埋もれるような糸目が印象的だった。目の前にいる少年の細い顎の線と、フレームのない眼鏡からでは、どう頑張ってもそのイメージに結びつかない。それでも彼が正真正銘のタイシであるということは、異世界の記憶を思い出したという事実ではっきりしている。
「確かに、ギャップが大きすぎるかな? でも、よかった。ミサキちゃんもタイシくんのことを思い出せて」
「おかげさまで! 別に忘れたままでもよかったのにね!」
そういえば、二人は異世界でも喧嘩ばかりしていた。マコトは早速、昔の記憶を引っ張り出して笑ってしまう。タイシのほうはといえば、すでに冷静さを取り戻したのか、今にも噛みつきそうなミサキのことなどまったく気にしていない様子だ。そのうえ、さらに。
「三つ目の質問の答えがまだだったが、俺は――」
「あれ? それ、まだ続けるの?」
「もうわかってるのよ! いらないのよ!」という二人のことなどお構いなしで、タイシは一度、すっと息を吸い込んだ。
「俺は、緑木タイシ。中学一年生。お前たちというかけがえのない仲間とともに、異世界を救った英雄のひとりだ」
あまりにも堂々と言ってのける姿に、マコトとミサキは揃って口をぽかんと開けてしまう。タイシは基本的に変わり者だが、そんな自分をまったく偽らない。その堂々とした姿が、ときどき無性にかっこよかったということも、マコトは思い出した。
「……相変わらず、恥ずかしい変人ね」
「やっぱり、タイシくんはタイシくんだ」
マコトとミサキの温度差のあるリアクションを公平に受け止めながら、タイシは満足げに唇の端を引き上げる。
「お前たちも変わらんな。……ふむ。ということは、デコレージョンの機関車から子どもを救った中学生というのは、マコトのことだったか」
「なによ、それ。マコトすぎて笑っちゃう」
「どうしてタイシくんが知ってるの!?」
「現場を目撃した連中が流した噂が、会場中に広まっている。加えて、マーケットの各地点を中継していたライブカメラにも映り込んでいたようでな。その部分だけ切り抜かれた動画が、公式サイトのリアルタイムニュースで紹介されていた」
「なんでっ!?」
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