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ありえない展開だ。ありえない光景だ。でも。
なぜ、とか。どうして、ではなく。
危ない、と。そう思ったときには体が動いていた。
「――ッ!」
地面を思いっきり蹴り出しながら、邪魔なマフラーを放り捨てる。最短距離で目標へと突き進むマコトの勢いに驚いた周りの客たちが、短い悲鳴を上げながら道を空けた。勢いよく腕を振るスペースを確保できたことで、マコトは一気に加速する。
走る、走れ! 間に合う、間に合え!
必死に伸ばした指先が、子どもの肩にわずかに触れる。驚いて振り返る子どもと目が合ったと思ったときには、その小さな体を胸に抱き込んで前方へジャンプしていた。間一髪。背後で機関車が駆け抜けていく気配がする。
自分の体が子どものクッションになるように空中で体勢を変えたマコトは、その勢いのまま植え込みへと突っ込んだ。痛みと衝撃に胸を詰まらせるが、そんなちっぽけなことに構ってはいられない。
「……っ、キミ! 大丈夫!?」
どうやら怪我はなさそうだった。けれど可哀想に、怯えて声も出ないのだろう。子どもは俯いたまま、ぴくりとも動かない。励ましの言葉をかけて少しでも安心させようと、マコトが再び口を開いた――そのとき。
「……にいちゃん、なにやってんの?」
「え」
予想外すぎるリアクションに、マコトの頭がフリーズする。聞き間違いだろうか。それとも、あまりの急展開に子どもの理解が追いついていないのか。見たところ、小学校低学年くらいの男の子だ。自分も同じくらいの年齢だったら、きっとパニックになっていたかもしれない。そう思って一から説明をしようとしたマコトと、勢いよく顔を上げた子どもの視線が、ばちりと音を立ててぶつかる。
「なんでいきなり後ろからタックルなんかしてくるんだよっ、せっかく楽しく遊んでたのに!」
「えっ、えっ?」
機関車にひかれそうだったところを救ったマコトのことも、子どもにとってはただの邪魔者でしかないのか。どう答えを返していいかわからず狼狽するマコトを見て、子どもが怪訝そうに眉をひそめる。「にいちゃん、ひょっとして……」
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