第一章 目と目が合って、おひさしぶり

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 マコトと同年代くらいだろうか。三つ編みを使ったハーフアップの長い髪が、淡いカーキのダッフルコートの背中で、さらさらと揺れている。高い鼻筋となめらかな肌が、氷の城からの極光を受けて、ゆらゆらと輝いている。  とても綺麗だった。顔の造作が整っているという、単純な理由だけではない。まっすぐに伸びた背筋が。じっと前を見据える眼差しが。そして何より、まるで引力が発生したかのように、どうしようもないほどマコトの視線が惹きつけられたのは――その、瞬きひとつしない瞳から流れる、涙。  泣いていた。歓声に包まれた、この場所で。笑顔が咲く、この場所で。少女もまた、マコトと同じように。ひとりでなにかに耐えるように泣いていた。  彼女なら知っているだろうか。氷の城を見てわき上がる、マコトには説明できない強い感情の正体を。そんな期待を込めて送った視線には、熱が込もっていたのかもしれない。凍りついていた少女のまぶたが、溶けるようにゆっくりと動き出す。そうして、大きな瞳がまっすぐにマコトを捉えた。 「!」  目が合ったと思った、その瞬間。マコトの頭の中で、存在しなかったはずの記憶が産声を上げた。絶え間なく続くシャッター音とフラッシュ。脳内でひとりでにめくられたアルバムの空白に、色づいた写真が次々と貼られていく。  そのすべての四角の中に、彼女がいた。たった今、視線を合わせただけの彼女の、少しだけ幼い姿があった。そう。あのときはまだ、お互い小学生だった。覚えている。いや、思い出した。 「み――!」  声と同時に、マコトは片足を踏み出した。つながったままの視線の糸をたどるように、人と人との合間を縫いながら、少女のすぐ近くまでやって来る。そして――「はっくちゅん!」  唐突で盛大な、くしゃみ。最悪のタイミングだ。よりによって、こんな大事なときに。そんなに寒くないからと甘く考えてコートを着てこなかったことを、マコトは心の底から後悔する。 「……誰よ、みはくちゅんって」  いたたまれなさに耐えられず、とっさに顔を下に向けた姿勢のまま固まっていたマコトの頭の上から、あきれたような声が降ってきた。間違いない。少しだけ大人びてはいるが、記憶の中の彼女の声だ。 「肝心なところでおマヌケさんなところ、全然変わってないのね」 「……っ」  台詞の内容とは裏腹の優しい口調に、じわりと涙が浮かんだ。ああ、彼女も覚えていてくれた。その確信が、マコトの全身を熱く細かく震わせる。 「久しぶり、マコト」  柔らかい言葉に背中を押されながら、ゆっくりと顔を上げた先。揺れる視界の中で、彼女が微笑んでいた。ひどくうれしそうに、少しだけ照れくさそうに。マコトが蒸気機関車から助けた、マコトをヒーローと呼んでくれたあの子どもと同じように。 「……久しぶり、ミサキちゃん」  みっともなく震えるマコトの声を聞いて、涙の跡を残したままの少女の頬が一気に緩んだ。懐かしい笑い声が、可憐な鈴の音となって冬の空に高く響く。  ――今から三年前の、まだ小学四年生だったころ。  赤星マコトと桃園ミサキは、異世界を救った英雄になった。
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