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「何で?何でオレが康介を送って行っちゃダメなんだよ。いっつもオレを送って行ってくれるじゃん。そのお返しなのに・・・。」
可愛い事言ってくれるけど、恋人を夕暮れ時に一人で帰すなんて出来ないって。
何かあったらどうする!
そう思うけど、きっとそんな事言ったら「女扱いするなっ」って怒るだろうなぁ、と想像できる。
女扱いする訳じゃなくて。
とにかく大事で大切なんだって、どうやったら分かってもらえるんだろう。
充の自転車まで2人で歩いてきて、それでも充は動きだそうとしない。
「お、オレが・・・やっぱ、オレが小さいから?危ないとか思ってる?」
そう言って、少し涙目で俺を見る。
「で、でもオレだって、同じ男だし。・・・自転車だったらサーッと帰れるし・・・。」
はぁ。泣かせたいわけでも、男だからとかそういう事に拘ってるわけでもないんだ。
ほんとはさ、ほんとは。
見送るのが嫌だっただけ。
俺のワガママ。
取り残されるみたいに、充の後ろ姿を見送るのが嫌だっただけ。
周りに人がいないことを確かめて。
俺は充をそっと腕に抱いた。
「ごめん・・・。そうじゃなくて・・・。いや、そうじゃない訳じゃないんだけど・・・。いや、そうじゃなくてっ」
「ふふ、何言いたいの。」
「俺がさ、充を見送るのが嫌だっただけなんだ。・・・ほら、後ろ姿・・・離れていくのって寂しいじゃん。」
「・・・・・・オレだって・・・だから。」
「ん?」
「オレだって。・・・オレだって康介が帰っていくの、いっつも寂しいんだからなっ。」
ぎゅうっと抱き着いて顔を埋める充の言葉に俺はああそうか、と思った。
男だとか女だとか。
どちらが守る側で守られる側か、とか。
男らしさとか、体格差とか。
そういうの、関係ないんだって。
お互いが好きだと、お互いが大切で大事で。
離れるのが寂しくて。
会えるのが嬉しくて。
そんな、切ない気持ちになるんだって。
「ん、そうだよな。ごめん、充・・・。」
「わかったなら、いい・・・。」
まだ少し泣きそうな顔だけど、涙は流してないみたいだから、今日は俺が折れる。
「じゃ、今日は充くんに送っていっていただきます。」
そう言うと、本当に花が咲いたように笑うから。
俺はもう一度ぎゅうっと充を抱き締めた。
蛇足。
結局、充の力では2ケツは出来なくて、俺が自転車と並走するのもおかしな話なので、俺たちは自転車を押しながら一緒に歩いて帰った。
時間はかかったけど、帰りは充がサッと自転車に飛び乗って帰っていったから、後ろ姿に感傷的になる暇もなかったけど・・・。
やっぱり、充には、学校には歩いて行こう、と提案するつもりだ。
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