攫われた後も貴方に恋してる

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 まだ自分と視線を合わせようとしない(こと)の額に何度もキスの雨を降らせながら、加瀬(かせ)はまだ足りないというように意地悪な笑みを浮かべてみせた。 「ゆ、志翔(ゆきと)さん……その、私はもう色々いっぱいいっぱいなんですけど」  キャパシティーオーバーだと彼女が必死で伝えても、加瀬はその腕を緩めるつもりはないらしい。ドキドキと大きな音を立てているのが琴の心臓だけではない事も、こうして触れ合っていればしっかり伝わってくる。  子供の頃、たった一度だけ会っただけなのに……こんなに長い間、自分の事を忘れることもなく。ずっと苦しかったあの場所からも攫ってくれた。今だって、誰よりも琴を大切にしてくれている。  ……世界一、加瀬 志翔という男に愛されていると嫌という程に実感出来た。 「さっさと思い出さなかった琴が悪いんだろ? 俺だけがずっとヤキモキしてたんだからな、少しくらいアンタも困らされればいい」  どうやら彼の性格は変わらないようだが、その言葉一つにも愛しさが込められている。それが分かるからこそ、琴はますます体中の熱が上がっていくような気がして。 「……ゆ、志翔さんの意地悪!!」  そう言いながらも琴は、自分を抱きしめたままの加瀬の背中に腕をまわす。遠回りした二人は、相手の存在をしっかりと確認するように抱きしめ合う。  時間が止まったような二人だけの空間で見つめ合い、そうして静かにお互いの唇を重ねたのだった。    ――END――   2023/10/31 花室 芽苳
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