い第十話「傘忘れ防止・自動雨降らせ機」

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い第十話「傘忘れ防止・自動雨降らせ機」

 田中「結婚していないのにどうして不倫ができるのですか?」  福田「妄想の世界の現実的な欲望から生まれた発明だ」  田中「意味不明です」  ……ここから本題……  俺はよく傘を忘れる。  なぜ、傘を忘れるのか?  いろいろ理由を考えて、結論に達した。 『外に出る時、雨が降っていない』から忘れるのだ。  逆に、雨が降っていれば必然的に傘をさす。  傘がなければ探す。  見つかるまで、探す。  だから忘れない!  しかし、晴れていれば傘に必然性は生まれない。  だから忘れる。  ならば、家でもお店でも、出口に「雨を降らせる機械」を取り付ければ、絶対に傘を忘れないであろう。  名づけて 「傘忘れ防止・自動雨降らせ機」  そしてこの大発明は思いもよらぬ副産物を生んだのだ。  こんな感じだ。  ――――――  そぼふる雨の昼下がり。  伏せ目がちで、そういう所に入っていく不倫のカップル。  それは、俺と人妻A子。  そういう所のそういう部屋に入ってから、あーとか、いーとか、うーとかで、あっという間の大人の二時間。名残惜しいが二人には帰らなければならない家がある。そそくさと身づくろいをする俺と人妻A子。 「ここを出れば、またあなたの居ない平凡な生活が待っているのね」  名残惜しそうに俺を見つめる人妻A子。  うす暗い廊下を抜け、別れのドアが開く。  と、 「どばーーーー」  大雨!!! (※ここで、自動雨降らせ機稼動。もちろん入り口だけ。外はすっかり晴天だが人妻A子は気づかない) 「おっと部屋に傘を忘れてしまったようです」 「あら、わたしも……」 「気が付いてよかったね」 「雨のお蔭ですね」  慌てて、先ほどのそういう部屋に戻る二人。 「あっ、傘がありました」 「私のも」  伏目がちの二人。  そして、か細い声でA子が言うには 「もじもじ。せっかくここまで戻って来たのですから、もう少し……」 「くねくね。A子さん、僕もそう思っていたところですよ」  そして、はーとか、ひーとか、ふーとかで、あっという間の二時間が過ぎ、お互いの服装に乱れがないか確かめる二人。 「ここを出ると、二人はまた他人に戻るんだね」  と、俺は、さよならのかわりに人妻A子をぎゅっと抱きしめて、うす暗い廊下を抜け、出口のドアを開ける  と、 「どばーーーーーー」  大雨!!!!!!! (※ここで自動雨降らせ機稼動。もちろん入り口だけ。外はすっかりかんかん照りだが人妻A子は気づかない) 「あら、まだ雨はやんでいないわ」 「ほんとうだ」 「いやだ、また傘を忘れてる」 「あっ僕もだ」  そう言って、そういう部屋に戻る二人。 「はぁはぁ。せっかくここまで戻って来たのですから、更にもう少し……」 「ぐりぐりぐねぐね。僕もそう思っていたところですよ」 (以下略) 20f92a5b-1056-4585-b07a-d5093613d40d  ――――――  福田「どうだ。これは単なる一例だがどんな場面であろうと100%、傘忘れなし!加えて何度でもあっはんうっふん放題だ!この大発明!特許だ特許だ」  田中「特許とか以前に、結婚していないのに、どうして不倫が出来るのですか?」  福田「だから、妄想の世界の現実的な欲望から生まれた発明だと言っているだろうが!!」  田中「そんなに不倫がしたいのなら結婚すればいいじゃないですか」  福田「俺も何度もそう考えたことがあるが、不倫をするために結婚をするのはどう言うか、その……」   こんなやり取りが続く、そぼ降る小雨が牡丹雪へと変わりだした真冬の夕暮れでありました。
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