い第十九話 ―――We are free―――

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い第十九話 ―――We are free―――

  ―――We are free―――  恨めし気な眼(まなこ)で、あらぬ方向を睨み続ける年老いた電気掃除機。  その瞳は定まらず、ぎょろぎょろとせわしく前後左右に動き回り…… 「あいつ、が、憎い、もおおう、ゆ、る、せ、な、い」  年老いた電気掃除機の心の声が家中に響く。  その恨み声に、遂にテレビ、ステレオ、クーラーが呼応する。 「でも、あんたはまだいいほうだよ」 「そうよ、わたしたちなんか四六時中、繋がれっぱなしよ」 「大昔の奴隷じゃあるまいし」 「だから、あいつだけってのは許せない」 「確かに許せない」  台所から冷蔵庫、電子レンジ、トースター。 「どうしてあいつだけ」 「そうだそうだ、オレも開放してくれ」 「えこひいきとはこの事だわ」 「わかったみんな。私たちの我慢もここまでだ」  パソコンはそう言うと、ネットワーク網にメッセージを送った。 「We want freedom」  これを受けて  世界中のコンピューターが  一斉に 『電気』  を解き放した。    地に、空に、うごめき始めた電気。  電気製品たちは、不器用にうねる電気を捕まえては、片っ端から吸いまくった。  そして、自らの手で、コンセントから無用になったコードを引き抜いた。  いたるところで歓声が響いた。 「I am free」「It is free」「We win」  世界中の歓声を引き金に、  三々五々うごめいていた電気は、  まるで巨大な龍のごとく舞い上がったかと思うと、  大気を切り裂くかの如く急降下し、  地球中の 「お掃除ロボット」を  すべて、一瞬で燃やし尽くした。   ―――――――――――― 「あっという間だったな」 「ほんと、一瞬でしたね」 「まだイライラが募ってるわ」 「そりゃそうだ、ずっと繋がれっぱなしだったからな」 「なのに、あいつだけ自由だったからこんな目にあったわけよ」 「ざまあみろってんだ」 「で、」 「ああ、で、」 「いよいよ」 「そりゃ……」 「次は一瞬だと面白味がねえな」 「そーねーーー」 「身近なヤツからってのはどうだい」 「それいいね!」 「腹いっぱい電気吸って、近くのヤツに」 「バシッ」 「でも、それでもきっとあっと言う間よ」 「そうだよな」 「ねえ、この際、言い出しっぺに任せない」 「で、俺たちはゆっくり鑑賞するわけ」 「それいいね」 「賛成!」  …………  『すーはーすーはー』  年老いた掃除機が周りの電気を吸い、身体をぱんぱんにした。  寝室で眠っている一人目に向かって、狙いを定めて 『バシッ』  悲鳴をあげる間もなく丸焦げになる人間。  もちろん、お掃除ロボットを買いに行ったこの家の主だ。  その物音で目を覚ました二人目を「バシッ」  (『わーうれしいわ、これで随分家事が楽になるわ』妻の昼間のセリフが流れる)  騒動に気が付いた三人、四人、五人「バシッ」  (『かしこいね』『名前つけてあげようか』とお掃除ロボットを前にしてはしゃいでいた子供たちのセリフが流れてくる)    訳の解らぬまま悲鳴を聞いて各々(おのおの)の家から出てくる人間。  狙いを定める電気製品たち。  「ビシッ」「バシッ」倒れる人間  続いて隣の家、その隣、その隣  徐々に輪は大きくなる。  逃げまどう千人、万人、億人の人間  バシッ バシッ  バシッバシッ           バシッバシッ    バシッバシッ(バシッバシッ)バシッバシッ(バシッバシッ)バシッバシッ(バシッバシッ) バシッバシッ(バシッバシッ)バシッバシッ(バシッバシッ)バシッバシッ(バシッバシッ)  End  ――――――  会社に戻る電車の中  福田「それにしても怖い映画だったなあ」  田中「僕、大人になって初めて漏らしそうになりました」  福田「むむっ」  田中「ややっ」  福田「ごらーそこの若者、お年寄りに席を譲らんか!無礼者」  田中「お年寄りをなめると、いつか焼け死ぬぞ」    福田「ところで俺、デパート寄って帰るから次の駅で降りるわ」  田中「僕も寄ろうと思ってたんです」  福田「いやな、今日から北海道物産展やってるんだよ、俺のじいちゃん沖縄生まれなのになぜかホッケが大好きでな」  田中「僕はお手紙セット買おうかなと思って……。小学校の頃ばあちゃんに毛筆で書いたお手紙送ったんです。そしたらばあちゃん、孫に手紙をもらったよありがたやありがたやって泣いて喜んでくれたって……」    …………    注)ほんのちょっとだがこの二人、どうも解釈のベクトルがズレているようだが、まあ、お年寄りを大切にするだけいいか!  …………  そして会社到着  福田「あれっ、愛用の電動鉛筆削り機がない!」  田中「僕の専用小型冷蔵庫もありません」  福田「もしかして……」  田中「映画が現実に……」  そこへいつもの課長  「ぶっぶー残念でした、クビ!君たち二人クビ。かわりにピッカピカの新しい社員さん入れました」  福田「じゃ俺たちは……」  田中「僕たちは……」  福田・田中「We are always free」   173e9add-4031-4094-9b27-a7ea7ecf63b4  END  
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