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「そんなこともあったよね」
1つの肉まんを半分に分け合って、大口で頬張る。あっけらかんと笑いながら、結斗は子リスのようなクリクリの瞳で俺を見上げる。
あれから、ほぼ1年。コンビニのレジ横に肉まんが並ぶ秋が来た。
「口元、タケノコ付いてる」
「えー、どこ?」
絶対、わざとだろう。これだから、自分が可愛いって自覚している奴は、手に負えないんだ。
「……ココ」
グイと肩を抱き寄せると、下唇の右に貼り付いたタケノコの欠片を唇で食み、そのまま彼の唇も食べた。同じ、肉まんの味がする。
体育館の裏? ああ、行かなかったさ。
翌朝、季節を先取りするみたいに、マフラーをグルグル巻きにして、手袋をはめた結斗が登校してきたから。『お前だろ?』って、俺が水色の手紙を見せたら、彼は、大きな目が溢れるんじゃないかってくらい見開いて、耳まで真っ赤になって頷いた。
この季節は気温の変化が大きくて、昼間はポカポカ小春日和でも、夕方になれば冷えてくるんだ。陽当たりの悪い体育館裏なら、なおのこと。実際に体験したからこそ、用意周到な防寒スタイルを選んだに違いない。
「気付いてくれるって、分かってたんだ」
キスの後で結斗が笑う。
どっちだよ……どっちもか。
待っていたのは、小悪魔からの本気の恋。彼の狙い通りに振り回されて、気付いたら、捕まった。全く……あざと可愛い奴め。
【了】
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