とりあえず冒険を始めてみた

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今俺達は「バルデロス」という町の大通りを歩いている。とても華やかな町で多くの商店が軒を連ねている。色んな店に入り、ウィンドウショッピングを楽しんだ。見てるだけというのもなかなか楽しいものだ。 「色んな商品があって、目移りしちゃうね、アロル」 「そうだな。ってかもう何十分もこの店にいるよなー、そろそろ次の店行かないか?」 「そうね」  俺達は大通りをはずれ、路地裏に入ってみた。いくつか店舗が並んでいる。その中で際立って怪しい雰囲気を漂わせている店があった。入口には「異世界への扉」という看板が掲げられているだけで何の商売なのか全くわからない。しかし、どういうわけか何か惹かれるものを感じるのである。俺達は思い切って店の中に入ってみた。店内では、これまた怪しげな恰好をした老婆が掃除をしていた。 「すいません、ここは何屋さんですか?」  サラが老婆に尋ねてみた。 「看板を見ただろ?文字通り、異世界へ行く事ができるのさ」 「え?異世界へ?」  俺は声に出して驚いてしまった。前にも異世界へとばされてしまった事があったが、それを商売にしている人がいるなんて思わなかった。異世界へ行ったあの日からいつかまた行ってみたいと思っていた。まさかまたチャンスが巡ってくるなんて! 「やっぱり魂だけ飛んでいっちゃうんですか?」  サラが不安そうな表情を浮かべながら聞いた。 「そうだよ。どこの異世界へ飛んでいくかわからない。どの人物にのりうつるかもわからない。全て運任せさ」 「なんか怖い…私はやめとく」  サラは体を震わせながら言った。 「俺はお願いしようかな。いくらなんだい?」 「5万ギンド頂きます」  俺は金を支払った。 「異世界へ行っても頭の中で私と話す事ができるから、もし帰りたくなったら言っておくれよ。それじゃあ、いくよー、それ!」  急に目の前が真っ暗になった。ぐるぐる回転している事だけは分かる。回転はすぐに止まった。しばらくすると聞き覚えのある女の人の声が聞こえてきた。 「たけし、そろそろ起きな!朝ごはんできてるよ」  俺は目をあけて、バッとふとんをめくった。  あっ!この人は!前に異世界へ来た時にもあった人だ!良かった、無事に異世界へ来られたんだ。 「あの…ここは二ホンのトウキョウという所ですか?」 「当たり前じゃないのよ!何言ってるんだい、変な子だねー」  やっぱりあの時に来た世界へまた来られたんだ!って事は…  俺は鏡を覗いた。  あ―――、この顔もあの時と同じだ――。またこの人間にのりうつる事ができるなんて、こんな偶然ってあるんだな。  俺は朝食を食べ、学校へ行く準備をした。するとまたあの時と同じように1人の女の子が俺の部屋に入ってきた。 「おっはよー、たけし。学校行こう!」 「おお、早苗ちゃん!久しぶりー」 「昨日会ったじゃない!何言ってるのよ」  俺達は家を出て、学校へ向かった。  早苗はポケットから長方形の光る物体を出し、指でいじり始めた。 「それはなんだい?早苗ちゃん」 「え?スマホの事?あんただって持ってるじゃない。何言いだすのよ」  俺はスマホというものを少しかりて操作してみた。最初は何をどうすればいいかわからなかったが早苗に聞きながら、なんとなく使えるようになった。とても便利な代物だ。こんな物が存在するなんて俺の世界よりだいぶ進んでいるな。もし、元の世界でスマホを作る事ができたら、大儲けできるのに…   俺はスマホを早苗に返した。ふと、道路に目をやると、車輪のついた馬のような物体にまたがり猛スピードで進む乗り物を見つけた。 「あの乗り物はなんだい?」 「バイクの事?たけし、今日なんだか様子が変だよ…記憶喪失?あっ!そういえば前にもこんな事あったよね?」  前にこの世界に来た時の事か。  この子に俺が異世界から来たなんて言っても信じてもらえないだろうけど、どんな反応するか見てみたい。どうせ変人扱いされて終わりだろうけど、ちょっと試してみるか! 「あのさ、早苗ちゃん。絶対おかしな人だと思われる事を覚悟して言うけど…実は俺…異世界から来たんだ!」 「え?ホント?本当に異世界から来たの?」 「そうなんだ。前にも来た事があって、今日は2回目。俺の本当の名前はアロルっていうんだ!」  俺がそう言うと早苗は急に泣き始めた。そして、いきなり抱きついてきた。 「本当にアロルなのね。ずっと会いたかった…」 「どうしたんだい?早苗ちゃん」 「私はサラなのよ!」  え?サラは来ないのかと思ったが、来てたのか。 「なーんだ、結局サラも異世界転移してこっちの世界に来たのか?」 「何よ、その言い方は。5年ぶりに会ったっていうのに」 「5年!?じゃあ君は何才なんだ?」 「こっちの世界では17才だけど、元の世界では27才よ」 「27!?って事は5年前は22才だから俺より5年も未来から来たのか」 「時代が違ったのね。それでもまたアロルに会えてよかった。もう二度と会えないと思ってたから」 「もしかして元の世界へ帰れないのか?」 「そうなのよ。ある魔術師に魔法をかけられてこの世界に飛んできちゃって、帰る方法がないの」  それはかわいそうだ。この世界のサラが元の世界へ帰る方法がないか頭で念じて老婆に聞いてみたが、残念ながら方法はないらしい。 「元の世界へ帰れないなんて悲しいな」 「初めは毎日泣いて過ごしてたけど、こっちの世界も結構楽しいよ!パパとママも優しいし、友達もいっぱいできたよ」 「それなら良かった。こっちの世界の事色々教えてくれよ」 「うん、いいよ」  俺は早苗から色々と教わりながら学校に着いた。  この学校も久しぶりだなー、あの時と全然変わってない。当たり前か。  教室に入るとクラスメイトが話しかけてきた。 「なぁなぁ、聞いたかよ、たけし。2組の原内と1組の平賀が付き合ってるんだってよ」  やっぱりこの世界でもそういう話題でもちきりなんだなぁ。どこの世界でも若者が話す事は決まっているようだ。よく考えれば、他人の恋愛事情などどうでもいいのだが、どういうわけかその手の話には皆食いつく。 「そうだったんだぁ、全然知らなかった」  俺は適当に話を合わせた。 「ところで、お前と早苗はどうなんだよ?手ぐらい握ったのか?」 「そんな事はどうでもいいだろ」  こんなくだらない話をしているうちに授業の時間になった。  俺は教科書を開いた。  相変わらず何がなんだかさっぱりだ。こんな難しい問題解いてて逆に頭がおかしくならないのだろうか?俺は見ているだけで頭が痛くなってくる。 「それじゃあ次の問題を誰に答えてもらおっかなー」  俺はあてないでくれよ。もう恥をかきたくない。頼む、頼むから俺だけはやめてー。 「じゃあ、たけし、答えてみろ」  な――――!!!やっぱり俺なのか――!ええい、もうどうにでもなれ! 「2番ですか?」 「正解です。やっぱりたけしは勉強できるなー」  ラッキ―――!!勘で答えたら当たっちゃったよ!今日は運がいいぜ!  結局1時間目は1回しかあたらず、なんとかしのぐ事ができた。2時間目と3時間目は体育だ。クラスの皆はグラウンドに集合した。 「それでは、100メートル走をやってもらう。まずは、出席番号1番から6番まで」  俺は最初のグループだな。久しぶりに全力で走ってみるか!  俺はスタートラインに立った。 「よーい、どん!」  俺は猛ダッシュで走り始めた。速い、速い、自分でも驚くほどのスピードだ。スタートでちょっと出遅れたが次々に追い抜いていき、今1番を走っている。俺のスピードについてこられる者などいるわけがないぜー!!と、思い上がった瞬間、前の体育祭で転んだ事があったのを思い出した。まさかとは思うが今日もまたいい場面で転倒するなんて事はないよな?  俺は転ばないように細心の注意を払いながら走った。 「ゴ―――ル」  俺は1着でゴールした。  やった!遂にやったんだ!栄光の1位をつかみとってやったぜ!でもここ異世界だから俺の実績にはならずにたけしの実績になっちゃうんだよなぁ…  次々に走り、全グループが走り終わった。 「それでは次にバレーボールをやってもらう」  バレーボール?なんだそれは? 「バレーボールなんてやった事ねぇー」 「バレーってどうやるの?」 「試合観た事はあるけど、やった事ない」  なんだ、クラスのみんなもやった事ないのか。それなら安心だ。 「じゃあ、バレーボールのやり方を説明するぞ」  先生は丁寧にやり方を教えてくれた。  所詮ただの玉遊びだろ?楽勝、楽勝。と、思いながらサーブを打ってみたら、全然思った方向にボールが飛んでいかない。おかしいな…投げるのとは全く違う技術のようだ。これは意外と難しいかも…  何十発もサーブを打って、やっと少しはまともになってきた。スポーツはなんでもすぐにマスターしてきたが、この競技はかなり苦労しそうだ。周りの人達も皆なかなかうまくいかず悩んでいる様子がうかがえる。やはり俺だけできないというわけではないようだ。他の人達に比べれば俺はまだマシな方かも。  次はスパイクの練習だ。先生が上げるトスにあわせて、みんな思いっきりぶちかましている。  よーし、俺だって!みんなの度肝を抜くようなスパイクを打ってやるぜ!  先生がトスを上げ、俺は助走をつけてジャンプした。あれ?  タイミングが合わず、空振りしてしまった。 「ははは、ドンマイ、たけし」  おかしいなぁ、今のタイミングで合ってると思ったのに…奥が深いぜ…  俺は猛特訓の末、やっとタイミングを合わせ、それなりに強いスパイクを打てるようになってきた。打てるようになってくるととても楽しい。強いスパイクがきまると気持ちがスカッとする。これはストレス解消にいいかもしれない。  最後にレシーブの練習だ。これもコツがいるらしく、初めのうちはボールを受けても思った所に飛んでいかなかった。その上、腕が痛い。だんだん、腕が赤くなってきた。これって体に悪いんじゃないか?やってるうちに慣れてくるものなのか?  腕が痛くなっても我慢しながら、何度も練習して、ちょっとはマシになってきた。しかし、サーブとスパイクと比べると1番上達が遅かった。 「次は何チームかに別れて、試合をしてもらう」  先生は適当にチームを決めた。俺はバレー部員が3人もいるチームになった。足を引っ張らないように頑張らなくては!  さっそく試合が始まった。いきなり、俺達のチームの出番だ。  俺のポジションはセンターになった。どういう役割なのかいまいちわからないが、とにかくスパイクを打ちまくればいいのだろう。  試合は圧倒的に俺達のチームが有利な展開だった。さすがにバレー部員が3人もいれば強いに決まっている。  どんどん場は進行していき、俺にサーブの順番が回ってきた。  俺もバシッと強いサーブをきめて、みんなを驚かせてやるぜ!  俺はボールを投げて、力いっぱい打った。しかし、当たり所が悪くボールはネットにひっかかってしまった。 「何やってんだよ、たけし!しっかりしろ!」  うっせぇ!バレー部だからって調子にのるんじゃねー!俺だって一生懸命やってんだよ!  心の中で文句を言ってみたが、実力のない者が何を言ってもむなしいだけだった。  今度はスパイクを打つチャンスが巡ってきた。  さっきのサーブではミスってしまったが、今度はものすごいやつをかましてやるぜ!自信を持て、俺は天才のはずだ…  セッターがキレイにトスを上げた。俺はタイミングを合わせて、ジャンプしてボールを打った。しかし、強いスパイクではあったもののラインから外に出てしまった。 「ふざけんなよ、たけしー!真剣にやってんのかよー」  またバレー部員が嫌味を言ってきた。  くそっ、なんでこんなクズ共にバカにされなきゃならないんだ!もうやめた!俺帰る!  俺は頭の中で「帰りたい」と念じた。しかし、老婆からの反応はない。どういう事だ?なぜ何も言ってこないんだ?もしかして俺、この世界から元の世界に帰る事ができなくなっちゃったのか!?  混乱しながらも試合を続けた。結局俺達のチームの圧勝だった。俺の活躍があったからこその勝利だな!と言いたかったが、実際は足を引っ張ってるだけだったような気がする。  他チームもどんどん試合を行い、全チームが試合を終えた所で今日の体育の授業は終了となった。  今日は3時間目以降は授業がない日だったらしく、皆帰りの準備をしていた。俺も荷物をまとめていると、早苗が話しかけてきた。 「アロル、一緒に帰ろう!」 「ああ、いいよ」  俺は帰り道で早苗に元の世界に帰れなくなってしまって困っていると相談した。 「アロルも帰れなくなっちゃったんだー。私と同じだね」 「どうしたらいいんだろ?俺もこのままずっとこの世界で暮らしていかないといけないのかな…はぁ…」 「元気出して!あっ、あそこにバッティングセンターがあるよ!バッティングセンターで嫌な気持ちを吹き飛ばそうよ!」 「何それ?」 「ただボールを棒で打つだけなんだけど、これがなかなか楽しいのよ!」 「へー、じゃあ行ってみようか」  俺達はバッティングセンターに入った。さっそく早苗が手本を見せてくれた。ボールがすごいスピードで飛んできて、それをうまく棒に当てて、かっ飛ばしていた。  簡単そうだな。初めてでもできそうだ。 「こんな感じ!アロルもやってみなよ」  早苗から棒を渡された。俺は構えた。  さぁどこからでもかかって来い!どんな球も豪快に打ってやるぜ!  ボールが飛んできた。速い!なんてスピードだ!間近で見るとこんなに速かったのか!と、思っている間にボールは俺の後ろへ飛んでいってしまった。 「こんな速いのをよく打てるな、サラ」 「そのうち、慣れてくるわよ」  次は確実に打ってやる!運動神経抜群の俺に不可能などないのだ!  ボールが来た。俺は思いっきり棒を振った。  しかし、ボールには当たらず、空振りしてしまった。  ちくしょー…こんなはずでは… 「今のは惜しかったわね、次は打てるわよ」  早苗がフォローしてくれた。  次こそは絶対にやってやる!もう失敗は許されない…俺は全神経を研ぎ澄ました。  ボールが猛スピードでこっちにきた。おりゃあー!  手が汗ですべっていたため、棒が手からすっぽぬけて飛んでいってしまった。そしてボールを拾ってた男に運悪く棒が当たってしまった。 「いったー」 「あっ、すいません!大丈夫ですか?」 「大丈夫なわけねーだろ!ふざけた野郎だ。お前にも痛い目にあってもらわないとつり合いとれねーよな!」  男はいきなり回し蹴りを打ってきた。俺は手でガードした。  俺が悪いので攻撃したくはなかったが前にも同じような事があり大変な目にあったのを思いだした。気がのらないが、俺は戦う事にした。  相手に前蹴りを打ち込もうとしたが、うまくよけられ、相手の右ストレートをくらった。俺はわざと1発くらう事にしたのだ。これでお互い様という事になる。ここからは本気でいくぞ。  俺は猛攻をしかけた。主にパンチを中心に放ったが、意外と相手の防御はかたく、どれも決定打にはならなかった。相手が足刀をかましてきた。俺がよけると相手は体のバランスを崩した。ここだ!  俺は1番の得意技の後ろ回し蹴りを繰り出した。うまく相手の顔面をとらえ、遂に男は倒れた。 「相変わらずケンカ強いね、アロル」 「まぁな」  ここで老婆から連絡があった。 「連絡が途絶えてすまなかったね!今日はちょうど魔力が弱まる日だったらしく、一時的に魔法が使えなくなってたんだよ。でも栄養ドリンクを飲んだからもう大丈夫だ。そろそろ帰るかい?」 「ああ、サラに別れを言ったら帰るよ」  俺は頭の中で言った。 「今連絡があって元の世界に帰れる事になったんだ。俺もう行くよ」 「そっか…あっ、言い忘れてたけど5年後に現れるゲホルって奴には充分に注意してね。もし出くわしたら、逃げるかすぐにためらわずに倒すのよ!あなたの世界のサラが異世界転移させられちゃうから」 「わかった、ありがとう、サラ。元気でな」 「私はこっちの世界で楽しくやるから、アロルは元の世界で楽しみな!それじゃあまたね」 「じゃあな」    そう言うと目の前が真っ暗になった。そして、来た時と同じように体が回転している感覚に陥った。そして元の世界に帰ってきた。 「申し訳なかったね。大丈夫だったかい?」  老婆が不安な表情を浮かべながら尋ねた。 「ああ、なんの問題もない」 「異世界は楽しかった?」  サラがニコニコしながら質問した。 「ちょっと悲しい出来事があったけど、とっても楽しかったよ」
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