とりあえず冒険を始めてみた

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 森の中を歩いていると、1匹のモンスターが現れた。三角フラスコのような形をしていて、身長は30cmくらいで手も足もないが二つの目と鋭い歯のついた大きな口が体の中央部分を占めている。  モンスターに詳しいサラはすぐにそいつの種類がわかったようだ。 「あら、ザリンじゃない。弱いモンスターだけど、噛まれるとちょっと痛いかも…」  ザリンが大きな口を開けて襲いかかってきたので、俺は軽く蹴飛ばした。ゴムボールを蹴ったような感触だった。するとザリンは、痛そうにしながら、ピョコピョコ跳ねて森の中へ消えていった。 「この辺りはこんなモンスターしかいないのかな?」 「あまり強いモンスターはいないと思う。ザリンレベルの奴らがほとんどじゃないかしら」  しばらく歩いていると、何やら嫌な音が近づいてきた。大群が押し寄せてくる音だ。 立ち止まって音のする方向を観察していると、ザリンの大群が現れた。どうやら、先ほどのザリンが群れをつれてきたようだ。 「これは、全部相手にするのは骨が折れるな」 「私に任せて!ガトリングシャワー!」  サラは無数の水滴をものすごいスピードで飛ばした。ザリンは次々に倒れていく。 「相変わらずすごいな、サラの水魔法は」 「まぁね」  向かってきたザリンを全て倒すと、さらに森の奥深くへと進んでいった。  途中おいしそうなキノコが生えていたので、俺は炎魔法で焼いて食べてみた。すると、俺は急に狂ったように笑い出してしまった。 「ぎゃははは、はーはっはっは、ふふふ、ひひひひ」 「どうしたの、アロル?」 「ひふふふ、ひーひー、はははは」 「このキノコに笑いが止まらなくなる成分が含まれていたのね…死ぬ事はないと思うからしばらく様子を見てみよう」  1時間程笑い続けやっと効果が切れてきた。 「はー、やっとおさまった…別に痛くもかゆくもないけど恐ろしいキノコもあったもんだ」  しばらく歩くと温泉が湧いているのを見つけた。この辺りは温泉が色んな所から湧いているという噂話を聞いていたが、実際に目にするのは初めてだ。サラはとても喜んでいる。 「わーい、温泉だぁ!入るからアロルは向こう行ってて」 「はいはい」  温泉から50mぐらい離れた所で座って待機していた。それにしても静かな森だ。風が気持ちよくて、とても穏やかな気分になれる。  俺が気分良くくつろいでいると、急にサラが大きな声で悲鳴をあげた。  「キャアー!」  俺は走ってサラの元に駆けつけた。 「どうした!?サラ」 「エッチ!見ないで!」  サラは体を布で隠しながら石ころを投げつけてきた。 「いて、何すんだよ!せっかく心配して来たのに」 「ただ毛虫がいただけだからあっち行ってて」  サラは再び温泉に浸かった。ゴロゴロして暇をつぶしていると、やっと俺の番が回ってきた。俺は服を脱ぎ温泉に入った。とても気持ち良かった。全ての負の感情が清められていくような感覚だ。これならいつまででも入っていられる。肌がふやけるほど浸かっていると、サラから早く出ろと催促されたので、渋々温泉から出る事にした。服を着替えていると、サラがやってきた。 「ねぇアロル、そういえばさぁ…」 「キャア、エッチ!」  俺はさっきのお返しをした。 「何言ってるのよ、女の私が男のアンタの裸見るなら問題ないのよ」  何?その差別…  温泉を後にして、旅を続ける。しばらく歩くと村が見えてきた。ほとんどが農家であり、とてものどかな雰囲気の村だ。犯罪の匂いなど微塵も感じられない。  村に入ると、村人達が何やらひそひそと話している。気になって俺は話しかけてみた。 「こんにちわ、今この村に到着した旅の者なんですが、先ほどから何を話されているんですか?」 「旅の方ですか、ちょっとマズイ時にいらっしゃいましたね」  村人は顔をしかめた。 「マズイ?何かあったんですか?」 「1か月ぐらい前から人が急にいなくなる事件が起きててねぇ、モンスターに食われちまったとか、天狗の呪いだとか色々噂はあるんだが、真相はわからねぇ。そして昨日また一人いなくなっちまったんだよ」 「それは大変ですね…ところでこの村に宿屋はありますか?」 「宿屋はないがあそこの大きなお屋敷だったら泊めてくれるかもしれないぞ」 「ありがとうございます。行ってみます」  村人に勧められたお屋敷に行くと還暦を迎えていそうな老人が出てきた。 「あの、もしお邪魔でなければ、今夜このお屋敷に泊めてもらえないでしょうか?お金は払います」 「金はいらんよ、その代わり畑を耕すのを手伝ってくれんかの?」 「そんな事でしたらお安い御用ですよ。ありがとうございます」  俺は頭を下げ、快諾した。  畑仕事は幼少の頃からキルルおじさんに仕込まれていたため、手慣れたものだった。それにしても、広い畑だ。この辺りの地主か何かなのだろうか?  畑仕事が終わると晩ご飯をご馳走してくれた。それほどおいしくはないが、贅沢は言ってられないので、我慢して食べた。 「おじいさんってもしかして地主さんなんですか?」  俺は問いかけた。 「そうだよ、何代も続く土地を守ってるんじゃ」 「へーすごいですね。そんな偉い人の家に泊まる事ができるなんて光栄ですよ」 「お世辞を言ってもうまい飯は出てこないぞ」  老人は嬉しそうな笑みを浮かべながら答えた。 「十分おいしく頂いてます」  俺はなんとか笑顔を作って本心を悟られないようにした。 「さて、今日は疲れたじゃろ?そこの部屋の布団でゆっくりお休みなさい」 「ありがとうございます」  サラと同じ部屋で寝るなんて10年ぶりぐらいだろうか?幼馴染とはいえ大人の女性が隣で寝ているとやはり緊張する。いやらしい妄想をしそうになったが、必死で打ち消しドキドキしながら眠りについた。  ふと目を覚まし、起き上がろうとすると、体が動かない。よく見ると、体に粘着性の糸がグルグルと巻きつけられていた。 「やれやれ、目を覚ましてしまったか。これから食事の時間だというのに…」  老人が殺気がこもった冷たい目で俺を見た。 「これは一体どういう事なんです?」 「見てわからんか?こういう事だよ」  老人はみるみるうちに大蜘蛛へと変身していった。モンスターが老人に化けていたのか!すると、最近この村で起こっているという失踪事件はこいつの仕業か。 「大人しく食われろ!小僧!」  大蜘蛛が向かってきた。俺は炎魔法で糸を溶かし、体を自由にして、大蜘蛛の攻撃をかわした。 「炎魔法か…こざかしい」  大蜘蛛は糸を吐き出し、再び俺をからめとろうとした。しかし、炎でなんなく糸を溶かしてやった。 「そんな攻撃じゃあ俺は倒せないぜ」 「食い殺してやる」  大蜘蛛が大口を開けて突進してきた。 「メサオ!」  大蜘蛛の体は炎に包まれた。 「くそ…こんな小僧に…俺が…」  大蜘蛛は炎をまとい息絶えた。  ここでやっとサラが目を覚ました。 「ふぁあ、おはよう…げっ、何このモンスターの死骸」 「大蜘蛛が老人に化けてたんだ。この村で起こっていた失踪事件もたぶんコイツの仕業だよ」 「そうだったんだぁ…人の良さそうなおじいさんに見えたのに…見かけだけだと全然わからないね」  夜が明け、村の人達に事の顛末を説明した。村人達は皆、戸惑いを隠せずうろたえていた。誰もがあの老人がモンスターだったなどとはこれっぽっちも思っていなかったようだ。おそらく、村人達の失踪が始まった1か月前に本物と入れ替わったのだろう。  村人達の混乱が収まった頃、ひととおり挨拶を済ませ、村を後にした。
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