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「おい玲奈ちょっとこっちこい」
「は? え?」
目の前の魔王は面倒くさそうに頭をぼりぼり掻いた。
カイルが私の前に出て剣を構えライナスが詠唱を始めジーナもダガーを抜いた。けれども魔王が面倒くせぇと言いながらシッシッと手をふると見えない力に三人はふっ飛ばされてドカという音とともに壁に磔になる。
「あー糞めんどくせぇ。モブは予め散っとけよ糞が。まじでダリィ」
モブ? それにこの魔王の酷い口調に聞き覚えがある。まじで? いやでも。
私がデコトラに轢かれた時、隣にマナチがいたことを思い出した。
「あの、ひょっとしてマナチ、なんでしょうか」
「あぁ? たりめーだろ。他に誰がいるってんだ」
そんなん言われても知らないよ。
何故マナチがこの世界に? いやそれなら私もだけど。それにしても何故魔王?
「ったく間抜け面晒してんなよ。それで本題だ。46階層以下は俺の『趣味の部屋』だから入ってくんな。とっとと帰れ」
「……マナチの『趣味の部屋』」
無意識に喉が鳴る。
「そんなわけにいきませんわ! リーナ様は必ず」
「うるせぇモブメイド。ぶち殺すぞ」
「待って待ってみんな落ち着いて」
マナチの趣味の部屋……そんな恐ろしいものに立ち入りたくない……。それがどれだけヤバいものか、いつも妄想を垂れ流すマナチの友人だっただけによくわかる。
だけどみんなは魔王を倒すために長時間艱難辛苦を乗り越えてようやくここまで辿り着いたのだ。私がダメと言っても納得しないだろう……どんなものかを見ない限りは……。
「ねぇマナチ、その『趣味の部屋』は入口直後からトップスピードに『趣味の部屋』なの?」
「あ゛ぁ?」
「いや、なんていうかさ、流石に立場とか金かけて潜ってるからダメというだけでは納得しないかと」
「……あー。入り口ちょっと片づけてくるわ」
魔王マナチが46階層への扉を開いた時この世のものとは思えない音が聞こえ、その姿が扉の向こうに消えた時に三人は張り付けられた壁からどさりと床に落下した。
「……リーナ、今のはどういうことだ」
「ごめん、みんな。私は実は隠していることがある。結婚式の時に前世の記憶を取り戻したんだ……」
〜〜
「なるほどそれでか。ようやくリーナの作る魔装具のオリジナリティの秘密がわかったよ」
「そうだな、見たこともないデザインだがものすごい効果だった」
「さすがですわリーナ様」
私は前世があること、それを突然結婚式で思い出したこと、そしてあの魔王は前世の知り合いの魂を有していること、ついでにアルフレッドが好きじゃないことを暴露した。当然ながらこの世界がゲームの中とかカイルたちが攻略対象だったとかそんな頭のおかしいことは話していない。
私の話は驚くほどすんなりと受け入れられた。どうやらこの世界には転生者とか転移者とかはたまにいるらしい。魔物への転生すら事例はとても少ないがなくはないということで受け入れられた。
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