1982年のスマートフォン

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「それでね、未来のわたしがこう言ったの。ハルキくんとは別れなさいって。将来、ひどく傷つけられるからって。高校を卒業するまで、わたしたちは付きあうのだけど、ハルキくんが漫画の新人賞を()って上京することになるそうなの。あなた、応募したでしょう?それから、プロとして軌道(きどう)にのったら結婚しようと言ってくれたんだって。でもね、実際に漫画家として成功すると、だんだん連絡がとれなくなったそうなのよ。ハルキくんは別の世界の人になってしまうって。わたしは、その悲しみを背負うことになるんだって」 「かすみちゃん…」 苦しくなって、彼女の名前を声に出した。 「馬鹿げているでしょう」 かすみちゃんがほほ笑んだ。 「そんなことない」 ぼくは慎重に言葉を選んだ。 「誰が聞いても、馬鹿げているわ」 「そういう未来だってあるかもしれない」 「こんな話を信じてくれるの?」 「うん、信じる。だけど、それはひとつの未来であって、他の未来だってあると思うんだ。だから、きみとぼくが一緒の未来だってあるはずだよ」 ぼくは、自分自身にそう言い聞かせたかったのだと思う。
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