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「何かあったんですか?」
「ううん、特に何かあったわけじゃないんだけど……相変わらずいい匂いするなぁって……」
言ってて恥ずかしくなって神崎君の顔を見られなくなって、どうしたらいいかわからない内に香りが濃くなった気がした。
「か、神崎君……?」
何が起きたかわからなくて神崎君を見上げる。
今、一瞬抱き締められたよね? 違う? 幻覚? そこまで末期的に疲れてる? 実は天に召される一歩手前? 本当に過労で旅立つ……?
「いや、包んであげようと思って」
何でもないことのように神崎君は言うけど、包んでって……本当に私のこと、抱き締めたの? 包むのと抱き締めるのは違うの?
「もっとしますか?」
至って真面目に問いかけてくるから、私は余計にパニックになる。
今時って言うかなんて言うか……何考えてるかわからないような新人たちもいた中で神崎君は実直って言葉がよく似合うくらい本当にまともな人間だった。
少なくとも終業後とは言っても会社でいきなり異性の先輩を抱き締めるようなチャラさは微塵もなかったはず。告白をはっきり断りすぎて泣かせたという噂もあるくらいには堅物。ガチガチの。
「こ、ここ、会社だから……!」
「会社じゃなければいいんですか?」
「それは……」
慌てる私に対して神崎君は平然としてる。仕事でわからないことを聞いてきた時みたいにあまりに真剣な調子で聞いてくるから答えられなかった。
頷いたら抱き締めてくれるの? どうして? 白昼夢的な何か? もしかして、自分で思ってるよりもずっと疲れてた?
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