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約束
「ねえ。明日、トモの誕生日でしょ?」
学校の帰り道。たまたま下駄箱で出会って肩を並べて家まで帰る途中のこと。ちゃんとさりげなく聞こえてる? 本当は何度も頭の中でシュミレーションしてた。下駄箱で出会ったのも偶然なんかじゃないよ。トモが部活が終わって出てくる時間を、図書室で待ってたの。そうしたら家が隣同士のわたしたち、きっと一緒に帰れるから。
「え? そうだな。なに、プレゼントでもくれるのか?」
迷って躊躇って照れくさくて、また明日にしようなんて諦めて、とうとう前日になってしまってからやっと言えたのに、トモは全くいつもと変わらない。まるで期待なんてしていないと、からかうような口調で言ってくるのが悔しいなぁ。ずっと探して迷って、やっとトモに似合いそうな紺色の手袋を買ったんだなんて、今はまだ、とても言えない。
「そんなものないわよ。けどせっかくだし、観たいって言ってた映画、おごってあげてもいいよ?」
……こんなはずじゃなかった。もっと、かわいく誘うはずだったのに。『あの映画、一緒に行こう』とか、『トモの観たい映画、わたしも観たいな』とか、シュミレーションではうまく言えたのに。現実は照れくささに勝てなくていつもの口調から抜け出せない。だけど。
隣からはくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「そっかー、莉奈のおごりかぁ。それじゃ、行ってやってもいいかな」
やった! そう思って満面の笑みが溢れそうになるのを何とか我慢する。そんな顔したら……、気持ちがばれちゃうよ。
「なによ、偉そうに。行ってあげるのはわたしの方よ」
笑顔を我慢してぷくっとほっぺを膨らませ、わざと拗ねたように言う。今度も何とかいつもの調子で言えたかな。足がふわふわと浮き上がって、ちゃんと歩けているのかも分からないなんて、気付いていないよね?
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