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姉の手ほどき
「ほら、できた」
最後に眉まで整えてくれたお姉ちゃんは、ふふんと満足げに笑いながら鏡を渡してきた。ドキドキしながらそっと覗いた鏡の中にはいつもよりつやつやとした頬、すっきりとした眉のわたしがいる。手のひらで顔に触れるともちもちと吸い付くよう。驚きながらじっと見ているわたしに、お姉ちゃんが話しかけてくる。
「服はそのワンピースね? 靴は? 玄関に出してたブーツ?」
矢継ぎ早に聞かれて、変だったろうかと戸惑いながら頷く。
「うーん、可愛いけどね。でもいつものスニーカーにしておきなさい。履き慣れない靴は疲れるから」
なるほどと思い、わたしは素直に頷いた。確かにせっかくのお出かけで靴ずれでもしたら大変だ、危ないところだった。『さすがお姉ちゃん』。そう心の中で称賛していたが、次のお姉ちゃんの言葉に心臓は跳ねた。
「せっかくのデート、楽しみたいものね」
「デッ! デート、じゃ、ない……もん」
一応は否定したものの、尻すぼみな言い方や真っ赤になったわたしの顔に、お姉ちゃんは全部お見通しみたい。はいはい、なんて笑いながら言っている。
「それじゃ、もう寝なさい。夜更かしは美容の大敵よ?」
なだめるように言われて、わたしは顔が赤いままで布団に潜り込んだ。
「あのね、お姉ちゃん。……ありがと」
照れくささに小さな声でしか言えなかったけれど、お姉ちゃんには届いたようだ。
「いいよ。明日、楽しんでおいで」
優しい声に励まされ、わたしはふわりと自信が出てくるのを感じた。明日はきっと、いい日になるよ。ね、トモ。
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