僕が押すと決めたんです

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 チキにロープを切ってもらい自由の身になった僕は立ち上がると「ありがとう」とチキにお礼を言った。 「どうしてここに?」 「村の人たちがサクハを運んでいるのが見えたから……」  チキは何かに怯えているような顔をしながら僕にそう教えてくれた。 「そうだったんだ。ありがとうチキ」 「でもどうしてサクハがこんな目に?」 「よくわからない……」  ロープで擦れた手首をこすりながら僕がチキにそう伝えると、チキも少し困ったような顔で僕を見つめる。僕が排除された理由がチキであるならば、この場所で二人でのんびりしている所を誰かに見つかったらチキの身にもよくないことが起こるかもしれない。 「チキ、ここにいたらダメかもしれない。どこかに場所を移そう」  僕はそう言うと辺りをきょろきょろと見回した。すると、さっきまで全く気がつかなかったけれど、少し離れた場所に小さな祠のような物が月の光に照らされてぼんやりと浮かび上がっているのが見えた。 「あれは祠?でも、村の近くにそんなのあったっけ?まあいいや。とりあえず、あの陰に隠れよう」  チキの手を取り、僕は祠の方へと歩き始める。 「なんだこれ……」  祠のそばまで近付いた時、僕は後ろに大きな穴が開いているのに気がついた。  穴の中を覗き込むと、深さは僕の身長くらい。はっきりとは見えないけど奥の方までずっと続いているようだ。 「行きましょ?」  そう言うとチキは穴の中にぴょんと飛び込んだ。 「え?チキ?!」  どうしてこの状況でチキはそんな行動に出られるのだろう。これこそが村の人たちがチキを見ないようにしている理由なのか?いや、それだけでなくチキは村の人が知らない何かを知っている?  チキが飛び込んだ穴から目が離せないまま立ち尽くしていると、ふいにぼうっと穴の中が明かるくなった。 「チキ?」 「サクハも入っておいでよ」  入っておいでと言われても……。  僕がまだ決心がつかないでいると、穴の中からチキがひょっこりと顔を出した。 「サクハ。ほら。そんなところにいると村の人たちに見つかっちゃってまたどこかに運ばれちゃうかもよ?」  さっきまで怯えた顔をしていたのに。チキはにっこりと僕に向かって微笑んだ。この笑顔は僕を安心させるため?それとも……。  チキの言う通り、この場所に突っ立っている方が危険だと考え直した僕は、チキの後に続いて穴の中へと入る。  入ってすぐは人一人通れるくらいの幅しかなかった穴は、進んで行くにしたがって広くなっていた。誰がどういった目的でこの穴を掘ったのだろう?人の手で掘られたにしては滑らかな断面を見ながら、僕はチキの後について行く。  まるでこの場所を知っているかのようにチキはどんどんと先を進む。この場所とチキの関係は?チキは本当は村の人間では無いのかもしれない。ひょっとして、チキを見えないふりをしていたのではなく、本当に村の人には見えなかったとしたら?  僕は迂闊なことをしていたんじゃないだろうか。  見えないはずのものに見えていると自分で宣言していたのは僕?  
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